はじめのことば (全連退 会長 土橋荘司)

総務部の活動

部長   廣瀬 久(東京都)
部長   戸張敦雄(東京都)
副部長 八木原勝可(群馬県)

 全国連合退職校長会は、平成16年に設立40周年を迎える。そこで本年度から本会設立40周年記念事業を推進するため組織を拡充し、中心となって活動する総務部を充実し、部長2名とした。総務部は、平成15年6月11日の理事会、同年6月12日の総会で議決された本年度の「目標」「総務部の事業計画」に基づき活動をしてきた。以下活動の主なものを述べる。

1.平成15年度の「目標」(案)を作成し、総会での議決を得た。(要旨)
  全国連合退職校長会は、『新しい時代を拓く豊かな人間性をもち、たくましく生きる主体性のある日本人の育成』を目指した教育が実施されるよう、教育関係諸機関・団体と緊密に連携し、広範な活動を展開するとし、以下の7項目(要項)について議決を得た。
(1)「教育の日」の制定に努力する。
(2)「教育憲章」の作成と趣旨の普及に努める。
(3) 生涯学習の推進と充実。
(4) 学校に関する諸課題の検討、学校の在り方についての研究。
(5) 共済年金制度の堅持、医療・介護保険制度の充実、叙勲制度の拡充等の要望、再雇用・再任用制度の充実、現職者の処遇の推進に努める。
(6) 会員の加入促進に努め、組織・活動の活性化。
(7) 設立40周年記念事業実行委員会を設置し、活動する。(詳細は会報150号参照)

2.平成15年度の「宣言・決議」(案)を作成し、総会での議決を得た。(要旨)
  本会設立40周年を迎えるに当たり、国際社会に生きるたくましい日本人の育成を目指す教育改革の実施状況や教育上の諸問題を的確に把握し、時宜に叶った意見や提言の公表。
   一、「教育の日」の制定を目指した国民運動の展開に努める。
   一、「教育憲章」の作成と、その趣旨の普及に努める。
   一、生涯学習の推進と充実のための諸方策を研究し、その実現に努める。
   一、共済年金制度の堅持、叙勲制度の拡充、医療・介護保険制度等会員の福祉向上を    要望。
   一、組織の拡大・充実を図り、いっそうの活性化を目指す。(詳細は会報148号参照)

3.第39回 定期総会及び理事会、副会長会、常任理事会等各種会合の企画・運営・司 会を行なった。

4.事務局長会の開催
  平成15年11月6日、江戸東京博物館において全国事務局長会を開催した。中心議題は組織の拡充。廣瀬総務部長の司会で青事務局長の提案、各地区別に協議の後、全体会で地区毎に協議結果の報告、協議。「教育の日」の現状報告。40周年記念実行委員会から平成16年10月16日記念式典及び祝賀会を行い、記念事業として、綱領の制定、記念誌及び記念会報の発行、功労者の表彰等を行うこと。(詳細は会報150号参照)

5.中央教育審議会、文部科学省等への要望書、意見文の提出。
(1)  平成15年8月7日、文部科学大臣に要望書を提出した。主な内容は
  <1>教育上の諸課題解決に関する要望(6項目)
  <2>学校教育の振興に関する要望(2項目)
  <3>退職校園長の活用及び福利厚生等に関する要望(3項目)(詳細は会報149号参照)
(2)  平成15年8月7日、厚生労働大臣に要望書を提出した。主な内容は
  <1>「共済年金制度」の堅持。
  <2> 14年度の年金額の遡及減額は厳に避けられたいこと。
  <3>高齢者の保険料負担や患者一部負担に特別な配慮を。
  <4>介護保険制度の円滑な運用と実施。(詳細は会報149号参照)
(3)  平成15年11月19日、中央教育審議会会長へ意見文を提出した。主な内容は
<1>義務教育に係る諸制度の在り方について。
義務教育に係る諸制度の在り方については、慎重に審議し、早急な結論は出すべきではない。
<2>義務教育における教育条件の整備の在り方について。
義務教育費国庫負担制度を堅持し変更すべきではない。
<3>学校の管理運営の在り方について。
学校の管理運営の在り方は、大きく変える必要はない。
<4> 学校教育に携わる教員の資質の向上が必要である。
<5>審議に当たっては、現職、特に校長の意見を十分に聞くとともに、広く国民の意見を聞くことが必要である。
(4)  平成15年12月18日、文教関係国会議員に「義務教育費国庫負担制度の堅持に関する緊急要請」を提出した。
(5)  平成16年1月16日、会長、副会長、総務部長、事務局長で、文部科学省玉井総括審議官と面会し、当面する教育課題について要請・面談した。

6.「組織拡充に関する調査」の実施と報告
  平成15年6月11日、「全国連合退職校長会の組織拡充に関する調査」を実施。その結果を副会長会、常任理事会、事務局長会において報告・協議を行った。

7.副会長会の開催
  平成15年7月15日、第1回副会長会を開催。<1>副会長(会)の在り方 <2>「教育の日」の推進 <3>組織拡充 <4>設立40周年記念事業等について協議。
  平成16年1月15日・16日、第2回副会長会を開催。<1>設立40周年記念事業 <2>会則等の改正 <3>「綱領」(案)<4>各地区の現状と課題・展望等について協議

8.「全連退情報」第26号~第31号の発行。平成15年度「年間活動・研究報告」の編 集・発行。

9.事務局長を中心に「会則」等の改正案検討中

「教育憲章」(案)の検討と普及活動

生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)
~教育支援活動の実態を探る~

平成15年度「年間活動・研究報告」 

 「教育憲章」(案)の検討と普及活動  

教育振興対策部長 富 山   保

1.本年度の活動の概要
<本年度の事業計画>

<1> 教育基本法の法制化の動向を見据えながら、「教育憲章」の内容、表現、解説について検討し、教育基本法との整合性をより明確にする。

<2>   各都道府県退職校長会の協力を得ながら、関係諸機関・団体等に対して、その趣旨の普及に努める。

(総会要項による)

 
<1> 「教育憲章」(案)の検討パンフレットの作成を目指して
○ 第1次案(平成12、13年度)のついての内容検討。
  内容検討の視点等
・9項目の文言はそのまま
・主として前文と9項目の解説(文)を簡潔、平易にする。
 引用や項目間の重複を避け、全連退としての考え方が、より明確に表れるようにする。
 解説は従来(第1次案)の28行程度から15行程度に凝縮する。
・前文 解説とも濃密な内容、表現になったと考えている。
○ 検討した結果をパンフレットにまとめる。
・普及、啓発用のパンフレットはB5判5ページとし、11月に完成した。

<2> 「教育憲章」(案)の普及より多くの人に知ってもらうために
○ 各都道府県会長宛にパンフレットを25部配布、併せて「教育憲章」(案)の説明のための機会と場を設けて欲しい旨依頼した。(12月)
○ 下記の関係団体等に部員が直接出向き、作成の趣旨、経過、内容の説明を行った。
・東京都の退職校長会支部、長野県退職校長会支会長会、鹿児島県与論町退職校長会ほか…
・教育を語る会(現職者も加入)で講演会、座談会 など…
・各種教育研究団体、研究会OB会 など…
・PTA連合会、健全育成会など…
○ 全連退会報150号(H.16.1.1)とホームページの掲載、更新を行った。

※「教育憲章」(案)について、理解と認識を深める活動は、その方法については模索の段階である。しかし普及のための方策、見通しについても見え始めてきた。更に関係諸機関と協力し合って普及に努めていきたい。

 2.教育憲章
われわれは、教育基本法の精神を踏まえ、日本の教育の指針として、この憲章を定める。日本の教育は、個人の尊厳、生命に対する畏敬の念を重んじ、日本人としての自覚と誇りをもち、世界の平和と文化の創造、人類の福祉に貢献できる主体性のある国民の育成に努めなければならない。
(1)人間尊重の精神にのっとり、一人ひとりを大切にして、自己の確立を目指し、心身ともにたくましく生きる力をもつ。
(2)豊かな日本の自然を愛護し、情操を培うとともに、地球環境の保全に尽力する。
(3)優れた日本の文化や伝統を尊重し、異文化への理解を深め、豊かな文化を創造する。
(4)美しい日本のことばを大切にし、礼節を重んじ、豊かな人間性を形成する。
(5)誠実さや勤勉さを大切にし、勤労の意義と奉仕の尊さを知り、共に生きる喜びをもつ。
(6)和の精神と思いやりの心をもち、温かな家庭と心の通い合う地域社会を形成する。
(7)善悪の判断を正しく行い、社会の一員としての自覚と責任をもち、正義の実現と社会の発展に尽くす。
(8)向学心に燃え、真理を求め、社会の変化に対応して、生涯にわたり、主体的に生きぬく力をもつ。
(9)民主的な社会及び国家の形成に努め、世界の人々と協調・協力し、世界の平和の確立に尽くす。 

3.前文、ならびに9項目の解説

前文 われわれは、教育基本法の精神を踏まえ、日本の教育の指針として、この憲章を定める。日本の教育は、個人の尊厳、生命に対する畏敬の念を重んじ、日本人としての自覚と誇りをもち、世界の平和と文化の創造、人類の福祉に貢献できる主体性のある国民の育成に努めなければならない。

 教育基本法は、教育に関する基本的な理念及び諸原則を示すものであり、いわば教育のみちしるべとなる性格の法律である。しかし、同法は世界のいずれの国にも通用する普遍的なものであり、必ずしも日本の教育の理念が明確であると言えない。
  そこで、教育基本法の精神に照らし、踏まえ、より具体的に日本の教育の指針を示すものとして定めたものである。
  これからの日本の教育は、日本の伝統や文化をよく理解し、愛着をもち、日本人としての自覚と誇りをもって、自主的に考え、自律的に判断し、誠実に実行し、その結果について責任をとり、国家社会の発展に尽くすことができる主体性のある日本国民の育成が重要である。また、社会の変化に主体的に対応し、国際社会において世界の人々から信頼し尊敬され、世界の平和と文化の創造、人類の福祉に貢献できる日本人の育成に努めなければならない。


(1)人間尊重の精神にのっとり、一人ひとりを大切にして、自己の確立を目指し、心身ともにたくましく生きる力をもつ。

 教育のねらいは人間の能力を開発するとともに、国家・社会を形成する主体者としての人間そのものを育成することで、最も大事なことは、人間尊重の精神であり、一人ひとりの個性を大切にする考え方である。個性伸長の教育を重視しなければならない。
  真の民主主義の実現やその根底にある自己の確立のために、一人ひとりに自己の在り方や他人とのかかわりを考えさせ、人間の生き方・社会性を身に付けさせることが重要である。そのためには、自律心や克己心をもつようにすることが大切で、いわゆる自己教育力を培うことである。
  また教育は、社会を組み立てている価値を伝達し、社会の構成員としての判断能力を身に付けさせることである。さまざまな社会関係の中で、寛容な態度・忍耐力・判断力・意志決定力・実践力・表現力・情報活用能力・自己実現能力などの育成が重要である。
  たくましく生きる力は、心身ともに健康であることは基より、全人的・実践的な力であり、知恵である。社会がいかに変化しようとも、自ら課題を見つけて考え、主体的に判断・行動し、解決する資質・能力を身に付けさせることが重要である。

(2)豊かな日本の自然を愛護し、情操を培うとともに、地球環境の保全に尽力する。

 人は自然の美しさに触れ、自然と親しむことを通して自然の生命力を感じ取ったり心を癒したりして、自らの人生を豊かにすることができる。
  わが国は、四季の変化に富み、四季折々の美しい自然に恵まれている。また、華道や歌舞伎、日本庭園など、日本が世界に誇れる伝統・文化や、花鳥風月を愛でる国民性は、独自の優れた短歌や俳句を生んだ。そして、自然とのかかわりの中で、自然の美しさ、神秘さなど、人間の力では及ばない偉大なものを感じ生きる喜びや活力を得ている。このような日本の素晴らしい伝統・文化を継承し、さらに、発展させるよう努めるとともに自然と共存する中で豊かな情操を育んでいくことが大切である。
  一方、私たちの生活は、大量生産、大量消費、大量廃棄など、物の豊かさや生活の利便化に伴い、環境を汚したり物を浪費したりしている面がある。そして、人間がよかれと思ってやってきた行為が自然の生態系を壊し、生命への悪影響や資源の減少をもたらしてきたと言えよう。
  環境問題について、一人ひとりが身近な問題としてとらえ、自分にできることを実行に移していくとともに、自然や環境に優しく接する心と態度をもち、かけがえのない地球を守るための努力をすることが必要である。

(3)優れた日本の文化や伝統を尊重し、異文化への理解を深め、豊かな文化を創造する。

 日本の文化と伝統は、今も多くの人々の心を支え、数々の建築・美術・音楽は、時代を超えて私たちの生活に溶け込み、世界の文化的遺産として人々の注目を集めている。
  有史以来多くの外来文化を迎え、取り入れ、日本化してきた祖先の偉業に改めて驚異の目を注ぐとともに、それは、日本の風土と民族の心、そこに住む人々の日々の生活の中で育てられたのだという思いを新たにする。
  日本の歴史と文化・伝統、芸術や美意識をしっかりと学び、身に付け、それがわれわれの日常生活の中に生かされていることを意識し、伝統あるわが国固有の文化を継承し、発展させ、日本人である自覚と誇りをもって、よりすばらしい日本を築くよう努力しなければならない。
  また、文化国家として世界や人類のために貢献するには、日本文化の伝統を尊重しながら新しい世界の動向に目を見開き、柔軟に対応し豊かな文化の創造に努める必要がある。
  自国の文化や伝統を理解し尊重することによって、新たな時代に即した文化の創造ができる。豊かな文化を享受し、創造することは国民の豊かな精神や潤いのある充実した生活を促し、それが世界の人々との交流・協調、国際理解へと輪を広げていくのである。

(4)美しい日本のことばを大切にし、礼節を重んじ、豊かな人間性を形成する。

 人間はことばで考え、表現し、人を結ぶ絆としている。ことばは人類文化の最高の所産であり、ことばの存在が人類の文化を創造してきたといえよう。
  ことばは民族、国、地域等によってそれぞれ異なり、生活や文化も異なっている。その国の思想や文化の奥には、母国語に内在する、ものの見方・考え方が流れている。一国の教育の基礎はことばにあると言えよう。
  日本のことばは、日本固有の「やまとことば」に、漢語、西洋語などの影響を受けて成り立っており、文字も漢字、国字、かな文字によって多様な表現ができる。また、豊かな自然に関する語彙や、人間関係の感情や礼節を表す語彙も多く、自然と触れ合い、人と心を通わせる中で、情緒豊かな美しいことばとして生まれてきた。
  わたくしたちは、日本語を生まれた時から使って物事を考え、自然の意思や思想を伝えて生活してきており、日本のことばに内在する日本人共通の生活感情や、日本固有の文化に育まれてきた。
  このような母国語としての日本のことばを理解し、感受して誇りをもち、大切に使うことは、日本の伝統や文化を大切にすることに他ならず、豊かな感性や温かな人間関係が培われ、日本人として、豊かな人間形成に資することになるのである。

(5)誠実さや勤勉さを大切にし、勤労の意義と奉仕の尊さを知り、共に生きる喜びをもつ。

 人が何事に対しても誠心誠意まごころをもって生きていこうとするのは、その人の誠実さの表れである。これは昔から培われてきた日本人の美徳であり、自分自身に対しても他人に対しても誠実・正直に生きようとする心といえる。また仕事や勉強などに精を出し励むことが勤勉であり、そこには苦労が伴うが、より良く生きるためには必要なことであると同時に、それが生きる喜びにつながっていくのである。
  勤労は心身を労して仕事に努め励むことである。人は仕事に真剣に取り組み、それを遂行することにより満足感を得、働くことに喜びを感じ、その尊さを知るのであり、ここに勤労の意義がある。また私心をすてて国家、社会、他人のために献身的に働くことが奉仕である。これからは、与えられ、与えることの双方が個人と社会の中で温かい潮流をつくることが望まれる。その中で自然に自分の周囲にいる他者への献身や奉仕を可能にし、さらにまだ会ったことのないもっと大勢の人の幸福を願う公的な視野にまで広がり、その尊さを知ることになるのである。
  まじめに仕事に励み成就感を味わい、奉仕の体験などによって生きる喜びをもつことは、正に人間の生き方そのものなのである。

(6)和の精神と思いやりの心をもち、温かな家庭と心の通い合う地域社会を形成する。

 人は、一人では生きられない。縁ある人々とかかわり合う家庭や地域社会の中で人となり、人として成長するのである。
  そこには「和を以って貴しとなす」に象徴されるような、人間関係を大切にする心の存在が欠かせない。和の精神とは、集団の目的達成のために構成員が互いに信頼し合い、認め合い、助け合おうとする心である。そしてそこでは、自他の立場に立って物事を考える思いやりの心が極めて大切な要因となる。
  和の精神と思いやりの心を育てるためには、まず、家庭での教育が原点であることを忘れてはならない。人と人とのかかわりあいの基本はここから生まれるのである。家族間の愛、信頼、厳しさ、尊敬等によってつくり出される温かな家庭が、人とのかかわり方とそれを支える心を確かなものにする。
  心の通い合う地域社会づくりは、人と人とのかかわりあいの発展である。家庭と地域社会は相互にかかわりあっており、このことの広がりが、心の通い合う地域社会づくりの基盤になるといえよう。

(7)善悪の判断を正しく行い、社会の一員としての自覚と責任をもち、正義の実現と社会の発展に尽くす。

 道徳上、社会生活において、他者に益する行為を善とし、他者を害する行為を悪とする。 
善・悪の意識と判断は、人が社会の一員であるための、最も基本的で重要な価値観である。
  善・悪を判断し正しく行動する力は、家庭における幼児期のしつけを土台とし、学校や地域社会での体験的な道徳学習を積み重ねることによって涵養される。家庭・学校・社会は、それぞれの役割に応じた有機的な連携の下に、道徳の教育を進めなければならない。
  人が自立した社会生活を営むには、是非善悪の判断を正しく行い、社会人としてのルールを守り、社会的義務と責任を果たすことが求められる。このような社会の一員としての自覚と責任感とを養うためには、自己中心的な考え方を排除し、個人と集団や社会との関係を理解させ、集団や社会に一員としての意識と行動力とを育てる教育が必要である。
  さらに、このことによって道徳性を高め、勇気をもって善を進め、悪をしりぞける強い意志と実践力とを育て、社会の正義の実現と発展に尽くそうとする意識や態度を身に付けさせることが肝要である。

(8)向学心に燃え、真理を求め、社会の変化に対応して、生涯にわたり、主体的に生きぬく力をもつ。

 人間は本来知的であり、理想を追い真理を求めて生きている存在である。今日の文明や文化が創造され、豊かな社会が実現されている姿はその証である。理想を求め、真理を追究し、学び続けることが本来的な生き方であるが、従来知識を教え、それを生かす方法が不十分だった教育によって、学びの姿勢が受け身になり、積極的な態度や学ぶ喜びに欠けた面があった。この現状を改善し、意欲的に学ぶ態度を育てることが大切である。
  今日の社会の変化は極めて急速で激しいが、流行や誤った情報に振り回されることなく、不易なものや正しい情報は何かを的確に捉えて行動に移すことが重要である。未来を拓く夢や目標をもって、自ら課題を見つけ、考え、主体的に判断して行動する資質や能力、探究心、合理的な考えなどを培うことが必要である。
  また、国際化や情報化などの社会の変化に対応するためには、生涯を通じて学び方やものの考え方を身に付け、課題を解決し、学ぶ喜びや楽しさを感得するようにしたい。人は、学ぶことによって、自己の生き方を考えることができ、よりよい社会の形成と発展・創造に資することになる。

(9)民主的な社会及び国家の形成に努め、世界の人々と協調・協力し、世界平和の確立に尽くす。

 人は、一人だけで生きていくことはできない。個人が他人とかかわりながら、よりよい社会を形成し、人間として生きていくものである。自分たちの力でよりよい社会づくり、国づくりに取り組むことは、民主主義社会における国民の責務である。国家や社会の在り方は、その構成員である国民の意思によって、より良いものに変わり得る。これからは、国や社会の問題を自分自身の問題として考え、主体的に行動する日本人の育成を図っていく必要がある。
  また、国際化の進展に伴って、わが国は国際的なかかわりをもつことなく存在することはできず、国際社会の一員であることが強く求められている。今後ますます国際的な相互依存関係を深めていく社会の中で生きていくわれわれにとって、どの国の人々も同じ人間として尊重し合い、人種、民族を異にすることによって、人権が損なわれることのないようにしなければならない。
  今こそ、国際社会に生きる日本人として、自覚と誇りをもち、他国から信頼され、世界の平和に貢献できる実践力を涵養することが大切である。

4.「教育憲章」普及活動の状況

 「教育憲章」(案)については、全国連合退職校長会が、現行の「教育基本法」の改正の必要性を認め、日本の教育の理念を明確にしなければならないという考え方に立って教育振興対策部が審議し、まとめたものである。
  「教育憲章」作成の趣旨は「教育基本法」の精神を踏まえて、より具体的に日本の教育の指針を示し、教育実践の規範にするものとして作成したものである。
  われわれが慎重審議を経て作成した「教育憲章」を埋もれさせてはならない。普及活動につとめて教育の振興を図るべきであると考え、本年度の教育振興対策部の活動の重点として「教育憲章」の普及を進めることにした。しかしながら「教育憲章」理解の実態は十分でなく、浸透を欠いている状況であった。そこで各委員が身近な集会などを通して地道な普及活動を進めることにした。現場の先生方や教育に関心を寄せている地域社会の人々に、前文ならびに9項目の教育指針を生かして、教育を展開して欲しいと啓発することにした。また「教育憲章」説明資料を2500部印刷し、各都道府県退職校長会・各教育関係機関宛に送付して普及の協力を要請した。

(1)各委員の取り組んだ「教育憲章」普及活動の状況
○ 西東京市の教育を語る会では、「人間性豊かな日本人の育成~全国連合退職校長会の提言と教育憲章を絡めて~」と題して講演を行った。
○ 関東甲信越ブロック小学校長会連絡協議会理事OB会では、「教育憲章の普及にご協力下さい」の文書を配布。各都県OB会代表に教育憲章を説明し、普及を要請した。
○ 東京都退職校長会埼玉支部 所沢・西地区総会では、「教育憲章」について説明し、意見を聴取した。
○ 東京都退職校長会杉並支部理事会、練馬支部理事会では、「教育憲章」作成の趣旨、内容の説明をパンフレットをもとにして行った。
○ 鹿児島県与論町では、町制施行40周年の式典のおりに、退職校長会会員と懇談し普及活動を行った。
○ 前都立教育研究所産業教育指導主事OB会、現職有志社会科研究会では、資料を配布説明後、普及活動の協力を要請した。
○ 埼玉県現職・退職校長会研究協議会(県教委・小中校長会・退職校長会の3者共催)等で、資料、会報などを活用して普及活動を行う予定。
○ 長野県退職校長会支会長会では、「教育憲章」作成の経過、理由説明を行った。
○ 墨田区、江戸川区PTA連絡協議会・健全育成協議会では、資料を配布し「教育憲章」を活用するように要請した。

(2)講演会・説明会で聞かれた疑問点や意見
・ “われわれは”は誰をさしているのか。
・ 健康、体力の面が欠けていないか。
・ 各項目に「主体性のある日本人の育成」をもっと色濃く出せないか。
・ 退職校長に話すより、現職校長に働きかける方が手っ取り早くないか。
・ 啓発資料の発行は、一回限りでなく、何回も続けなければ浸透しないだろう。
・ 啓発資料を読んでみたい。全連退会報に載れば、気楽に読める。

(3)その他
  各都道府県・市町村で「教育憲章」普及のために、機会と場を設けてもらえば教育振興対策部員が説明に出向くので連絡して欲しい旨PRした。
  全連退ホームページに「教育憲章」を入力して、インターネットのアクセスに対応できるようにした。
ホームページアドレス http://zenrentai.org/


5.あとがき

 「教育憲章」の用語は20年前にさかのぼる。昭和56年(1981)に「教育憲章制定に関する全国世論調査」(教育憲章制定推進委員会 代表 三潴信吾)が実施された際に使われている。その報告書に目を通し、先ずこの調査を精力的に推進された先人の情熱と教育愛には頭が下がる思いがした。
  調査の趣旨を見ると、当時の教育を『国民教育本来の目標を失い、教育の危機混迷は憂うべき事態になっている。教育の退廃は日本国家を形成する民族自体の運命にもつながる問題である。教育を建て直し日本人として確固たる自覚を持った人間形成に努めなければならない時である。戦後の民主教育は、未成熟のそしりをまぬがれない状況で、文明社会に根ざす人間性は喪失し、特に、家庭教育および学校教育における教育の権威は著しく低下している。さらに指導者の教育信念、情熱は薄れ、イデオロギーの対立抗争による不安定な教育不在、禍根が山積している教育界の現状を憂える』と痛烈に述べている。そして『教育の大本としての教育基本法は尊重しなければならないが、その高尚な理念を国民の身近な教育実践規範として、あらたに明示する必要がある。真に国民的自覚を促がすにたる教育指標の確立を目指して、「日本教育憲章」を制定したい』と賛否を調査している。調査結果を見ると、制定に賛成が約59%、反対が約6%になっている。
  平成12年(2000)に、全国連合退職校長会が、ほぼ同様の趣旨で「教育憲章」(案)を提言した際の、制定についての賛否結果を見ると、賛成が、約56%、反対が3%で、20年前の調査と賛否が、ほぼ同数で不思議さが感じられる。特に、制定についての賛否意見の記述を見ると大差ないのには驚きである。
  日本の教育が、危機的状況から抜け出すために、「教育憲章」の制定が必要であるという思いを高め、さらに「教育憲章」を普及して教育の振興を図ることが重要である。
  全国連合退職校長会では、中央教育審議会における「教育基本法」の改正作業の進捗状況を見ながら要望事項をまとめ意見具申をし、特に補則の中に「教育憲章を制定する」旨の文言を入れることを求めてきた。しかしながら「教育基本法」の改正作業が先送りになっている状態で、しかも「教育憲章」にまで手が及ばない状況にあると言われる。
「教育憲章」(案)については、全国連合退職校長会・教育振興対策部が平成12年度年間活動・研究報告に掲載して、会員各位から意見を聴取し、その後も諸団体代表から意見を聞き、平成13~14年度にかけて修正を加えて成案を得たものである。
  今年度は、その成果をもとに前文ならびに9項目の教育憲章(教育指針)の解説について、手を加えコンパクトにまとめ替える作業を行なった。担当委員作成の解説修正案を通読し検討を加え前述のようにまとめることが出来た。この検討作業を通して各委員の「教育憲章」に関する理解が深められたことは有意義であった。
  一方、本年度は「教育憲章」の普及活動に力を入れた。普及活動は今後の努力とPRの工夫が必要である。より一層の会員各位の支援が望まれる。

部長  富山  保   副部長 今井  満(長野県)
部員  青柳 忠克  入子 祐三  荻原 武雄  加藤 正喜  我謝みどり
      清水 章夫  清水 廣泰  深町 芳弘  牧野 禎夫

◇自然の中で“天蚕”の体験学習 神奈川県 高橋宏

自然の中で“天蚕”の体験学習  
生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

神奈川県 高橋宏

1.実践の動機
  藤野町立篠原小学校で、2年間かけて私個人としての支援活動を行った。
  本来は自然の中に生息する“天蚕”を観察して、飼育まで進める体験学習を指導した。その頃の篠原小学校は『へき地における環境教育篠原の自然と文化の中で-』と題する研究に取り組んでいた。当時の篠原地域では、「天蚕の飼育」という新しい産業に力を入れていて、自宅でも副業として天蚕を飼育していたので、学校から「環境教育の体験学習をお願いしたい」という要望があり、その役割を引き受けることとなった。


2.環境教育の計画
  学校が示した教育計画は次の通りで、この学習を支援した。
    実施時期  7月、 対象学年  3年生、  教科  社会、 時間数   1、
    学習のねらい  町が行う“自然を生かした仕事”について調べる。
    地域教材の活用  天蚕


3.学習展開の記録
支援教師  今日はこのクヌギ林の中に入って、天蚕の生きている様子を勉強します。では林の中に入って天蚕を見つけてください。見つかったら知らせてください。
    (なかなか見つからない様子である)
児童たち 先生見つけました。僕も見つけた。私も見つけた。
支援教師  どんなところにいましたか。
児童たち 葉の裏にいました。僕もそうです。私は葉を周りから食べているのを見ました。
支援教師  天蚕はどんな色をしていますか。
児童  木の葉と同じ色をしています。
支援教師  どうですか、皆さんそばに寄って見て下さい。葉の裏にいたり、木の葉と同じ色をしているのは、なぜでしょうか。考えて下さい。
児童  はい、僕は小鳥に見つかって、食べられないようにだと思います。
支援教師  そうですね。大変良いところに気がつきました。自分の身を守るためですね。この天蚕がやがて繭をつくるので、丈夫で美しい糸を取ることができるのです。


4 .成果と発展
  短時間の指導であるが、児童は自らの体験を通して、地域の特産である“天蚕”の生き方が分かり、大変貴重な学習ができたと思う。

◇子供の自然体験を深めるために 滋賀県 松見茂

子どもの自然体験を深めるために  
生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

滋賀県   松 見   茂

1.実践の動機
  定年退職以来15年間、町民を対象にした「ふるさと自然観察会」を実施しているが、数年前から地域の小・中学校から子どもの自然体験を深める教育活動の実践を依頼されるようになった。自然体験は、自然に対する畏敬の念、ふるさとを愛し自然を守ろうとする心など、“豊かな心”を育てるとともに、活力、判断力、自発性などを育てることを目指している。


2.小学校における実践
  まず、私が心掛けたことは、校長や担任の要望を十分に聴くこと、子どもが楽しく安全に多様な活動ができる場所を選ぶこと、そして、担任と共に行動することである。

(1)自然に触れることを喜び、遊びを創造する低学年
   晩春には、1・2年生合同で町内山地にある分校跡へ行った。シカの足跡探しをしたり、モリアオガエルやシュレーゲルアオガエルの卵塊を見つけたり、草花で風車や笛を作ったり、マツの葉で相撲を取ったり、スギやヒノキの葉のにおいを嗅いだりして、豊かな自然の中で私が驚くほど豊かな遊びを創造することができた。
 秋には学校の近くの雑木林へ行った。美しい花や実を探したり、どんぐりで独楽ややじろべえを作ったり、オオバコでギターを作ったり、グループ毎に模造紙の上で木の葉、蔓、実などを使って人の顔を作ったりして、子どもの表情は豊かであった。
 今でも子どもからの礼状を大切に残している。

(2)ふるさとの自然に親しみ、自慢できる場所や生物を探す3年生
   春には、小学校区の“水のあるいいとこ巡り”を実施した。湖岸、内湖、ため池を巡って、それぞれの美しい景観、多様な生物に触れ、水辺が持つ素晴らしさを発見した。秋には、春の実践を基に、子ども一人一人が課題を持って、春と同じ場所へ赴いた。そして、花や実をつけている植物、魚、虫、鳥など、各自の課題について詳しくまとめることができた。今の私の家には、子どもたちが作ってくれた「いいとこ巡りカレンダー」、「いいとこ巡りマップ」、「いきもの図鑑」が飾られている。

(3)ふるさとの水辺に生きる生物や水生生物を調べる4年生
   初夏には、学校近くを流れる川の下流から中流までを歩いて、川幅、流量、動植物、集落との関わりなどを調べた。秋には、各自課題を持って、その川の上流にある人工湖の歴史、植物、虫、獣のフィールドサインなどを調べたり、川に入って魚や水生昆虫を観察した。

◎  PTA研修会において、「地域の自然の中で子どもを育てる」という演題で、地域の中でどのような自然体験ができるかについて、詳しく具体的な説明を行った。

3.今後の方向
  自分の持ち味を活かし、多くの人とともに幅広く支援活動を実践したいと思っている。

◇授業改革の理念と支援活動の実際 長野県 務台丈彦

授業改革の理念と支援活動の実際  
生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

長野県 務台丈彦

 全国の仲間のひとりとして、社会科の初志をつらぬく会(会長 上田薫)に加入して40数年一貫して、教師生活を授業改革の実践に努めてきた。教育実践は難しい。人間が人間を教えることの難しさであるともいえる。教師自身変革がなければ、まず成功はない。一年に一度の校内研究会で、自己満足しているようでは、教育実践の進歩はない。こうした現実を見て、教育を根底から変革し、子ども一人ひとりを育てるための努力をやめる訳にはいかないという思いが、私を駆り立てている。


1.学校教育支援を実践している母体及び退職校長の関わり
  社会科の初志をつらぬく会-長野県初志をつらぬく会-(代表 務台 丈彦)では、本年度は長野県研究集会(2月)、甲信越ブロック研究集会(6月)、全国集会(8月)を行い、何れの集会にも有志の退職校長・教諭は会員・誌友として参加している。退職校長会は組織としては参加していない。信州社会科研究会(現職が主)と協力し合っている。


2.個人の実践 校長の要請による活動 
(ここ数年、4~6校が年2回、多くは10年以上継続)校長の了解を得て、個人の教室へも出かけ助言する。


3.対象者 小・中学校教職員、児童・生徒


4.学校教育支援の内容
(1)授業参観 全教職員による共同研究授業、公開授業研究会、参加教師との交流
(2)全校研究授業の全校研究会 2時間(討論、講師助言、質疑、講演、総括)
(3)学級を個別参観 授業診断10~20分 全学級を校長、教頭とともに巡回して、授業を見る。
※この研究についての方法が最も効果的。個々の教師との心のふれあいができ、継続的に助言できることが良い結果を生む。
(4)全学級の担任との個別懇談 一人10~15分(2日間にわたる)事前に一人ひとり教師により悩みを提出してもらい、懇談の資料にする。個々の教師と悩みを語り合う。


5.学校教育支援(学校の授業改革)の観点
(1)子ども一人ひとりが生き生きと学習できるための授業とそれを表裏する学校経営のあり方など、授業改革の理念とその方法。
(2)社会科の問題解決学習の理念と方法、総合的な学習との関係とその方法。他の教科学習への適用。
(3)子ども理解のための観察記録と活用の具体化をはかる。教師個人が力をつけ、子ども一人ひとりを育てることができる。


6.学校教育支援の問題点と課題
一般的に学校、教師は教育の実践研究の意欲に乏しい。形式的、習慣的で創意工夫が足りない。教師の研修は主体的にされることが重要である。学校経営は校長のあり方によって大きく左右される。意欲のある管理者が多数であることを望む。教員養成の根本的改革は、教育愛と使命感養成を主眼としたい。

◇市民団体の「総合的な学習の時間」の支援活動 東京都 圖子岩雄

市民団体の「総合的な学習の時間」の支援活動  
生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

東京都 圖子岩雄

 「ボランティア・市民活動学習推進センターいたばし」(以降学習推進センターと略称)は「板橋区とともに生きる福祉連絡協議会」を母体として2001年に設立し、今年の4月、NPO法人に認可された団体である。学習推進センターは「中学生ボランティア講習会」の委託運営、板橋区立大原社会教育会館と「木曜サロン」、「いたばしボランティア市民活動フォーラム」、「ボランティア学校」などを共催し、会館内に「ボランティア相互学習コーナー」を設けている。また、発足当初から「総合的な学習の時間」の支援を念頭におき、学校の教員・社会教育関係者・学習推進センター会員をメンバーとして「総合的な学習の時間を考えるプロジェクト」を毎月1回開いている。東京都の「地域教育サポート事業」のモデル事業を板橋区が担当し、当学習推進センターが事務局に委託された。


  児童生徒のボランティア学習には実績があるので、まず福祉をテーマに「総合的な学習の時間」の     
支援活動を始めた。会員の中の身体障害者・視覚障害者を講師に福祉講話を実施した。車椅子体験や白杖体験を行った。危険が伴うので、常に10数名のスタッフが応援している。スタッフには企業経営者・会社員・大学生・主婦など様々な人が参加している。この学習では講話と1回の体験にとどめないで、車椅子で駅のホームに上げてもらうとか、駅前の放置自転車の中をアイマスクや車椅子で通るとか、障害者の苦労を体験した。また、夏季休業中に障害者の自宅を訪問し、介護の訓練も受けた。インターネットでバリアフリーを調べることもした。まとめは、グループ討議してその結果を発表するなど、福祉問題をカリキュラム化して成果を高めるように努力している。2002年には小中学校13校で実施され、延べ250人のボランティアが参加した。さらに「英会話」、「国際交流」、「伝統芸能学習」など活動の幅を広げている。以上のような市民団体が活発に「総合的な学習の時間」の支援活動をしている例は東京都でも珍しいといわれている。


  私は学習推進センターの発起人の一人に加わり、活動に参加している。最高年齢で体力に自信のない私は、カメラやビデオなど記録写真の撮影を担当している。


  「総合的な学習の時間」の支援活動を行うには、支援を行える人材を住民の中から発掘し、協力者を集め、学校の責任者と連携して支援活動を計画し実行するコーディネーターが重要な役割を持っている。現職教員・教え子や元PTAなど地域と広く深い繋がりをもつ退職校長は、コーディネーターとして適任だと考えている。

◇スクールバンド指導の教育支援活動 北海道 斎藤頌

スクールバンド指導の教育支援活動  

生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

北海道 斎藤頌

1.実践の動機
  近年、小学校の音楽教育の分野に吹奏楽、金管合奏など、木管・金管の純楽器の導入が盛んである。札幌市でも昭和46年の北海道スクールバンド連盟の結成以来、市教育委員会の大きな支援で純楽器保有校が増加した。現在、市内212の小学校中、約80校が吹奏楽、金管合奏の部活動を導入している。指導者には、教育大学で吹奏楽を経験した教師が多く配置されたため、年々、演奏技術も向上してきた。
  現在の課題は、指導者についてである。優秀な指導者を得て、素晴らしい活動を続けていても、教員の転勤などで指導者不在となり休部に追い込まれる学校も少なくない。
  私の居住する近隣校でも、指導者の転勤で窮地に追い込まれていた平成11年春、当時の校長が私に指導を依頼してきた。好きな音楽活動であり、在職中育てたスクールバンド連盟の仕事でもあったので、直ちに引き受け、指導に当たって早5年になる。


2.具体的な活動の内容と成果
  活動の内容は、演奏実技指導(基礎指導)と演奏活動の指導(指揮)、そしてチーム活動なので、児童の生活指導にも及ぶ。また、練習日や練習時間は、バンドの規約に決められており、□始業前30分間 □火曜日放課後1時間30分 □第1・第3土曜日の午前中2時間である。
  この学校のバンド活動は、同好者の集団活動で、社会教育活動に位置づけられており、運営は父母の会でなされている。学校の教師が指導を担当している部がほとんどであるが、私のように地域の住民が、ボランティア指導している学校も2~3校ある。
  近年、純楽器愛好の児童が多くなり、練習の継続で演奏技術の向上も著しく、正しく、美しく、楽しい豊かな演奏ができるようになっている。学校教育との連携(学社連携)もなされ、学校行事の「1年生を迎える会」「運動会」「学習発表会」にも演奏を通して参加している。また、年2回の「校内ファンタジーコンサート」で、全校児童に演奏を聴いてもらったり、全校合唱祭で伴奏したりしている。また、学校を代表して、札幌市の音楽会やスクールバンド演奏会にも参加している。


3.問題点や今後の課題
  市内小学校の約80校に、金管バンド・吹奏楽バンドが存在する。これは、特別部活動奨励と児童生徒健全育成を目指し、市教育委員会がバンド編成を希望する学校に楽器の現物支給を続けてくれたからである。しかし、現在は財政難を理由に現物支給が打ち切られている状態なので、経済状態の好転が望まれる。
  また、指導者不在で悩んでいる学校、休部している学校もある。ボランティア指導者の確保や、行政が費用を出して指導者を確保してくれると、子どもの文化活動、健全育成活動が、一層発展すると思う。

◇ボランティアティーチャーとしての実践 栃木県 塩田利雄

ボランティアティーチャーとしての実践  
生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

 栃木県 塩田利雄

1.学校教育支援活動の動機
   教育の新しい動きの中で、「総合的な学習の時間」が設けられ、広い視野からの「児童生徒の自主的な問題の発見による創造的な問題解決能力の育成」を図ることになった。したがって、この目標達成には学校の総力を挙げ、地域の教育力と機能的に補完し合うことが重要となろう。特に、郷土の自然・歴史・民俗・産業などの学習では、地域社会の人材活用が効果的と思われる。たまたま学校からの要請があって、地域の教育力の一翼を担うこととなった。


2.学校教育支援活動の内容
(1)支援の対象 市貝町立赤羽小学校・同市貝中学校
(2)学習の内容 郷土理解に重点を置いた学習主題の設定と教材が用意された。
    ア 赤羽小学校区に伝わる民話・伝説を赤羽の方言で聞くこと(小4、国語)
    イ 多田羅沼周辺の自然と遺跡を観察調査すること(小5、理科・社会)
    ウ 市の堀用水の沿革を調査し、先人の業績を理解すること(小4、社会)
エ 国指定重要文化財「入野家住宅」の見学から、農村のくらしの変遷を理解すること(小4、社会)
    オ 地球の温暖化現象と地域の課題について考察すること(中3、社会・理科)
カ 里山の動植物の現状と課題を抽出し、その解決を図ること(中2、理科・社会)


3.支援者の役割と留意点
(1)役割 児童生徒が自ら問題を発見し、それを解決するよう仕向けること。自然現象や社会事象から何を(対象)どのように(方法)学ぶかについてサポートすること。
(2)留意点
    ア 自然を対象とした学習
・ 五感をはたらかせて対象をとらえる。(見る・聞く・嗅ぐ・触れる・嘗める)
・ 五感でとらえたことは必ず記録する。(絵・図・短文、色・形・大きさ等)
・ 児童生徒の疑問や質問には、簡単には答えを出さない。解決のヒントや参考図書を紹介するなど、調べ方を教える。
    イ 社会(主に文化遺産)を対象とした学習
・ 基本的には「いつごろ」「だれが」「なぜ・どうして」「どのようになった」「人々のくらしは」を解決のキーにして調査や観察をする。
・ 調査したことは記録にとり、順序よく整理するように仕向ける。
・ つねに歴史的背景を考えながら事物をみるように促す。


4.反省
(1)観察や調査から得た情報の記録の仕方、その分類や整理の基本が不十分だった。
(2)教員・支援者ともに、教科で学んだ基礎基本の学力の活用への配慮が不足した。
(3)NPOのような地域の職業人や有識者などによる学校支援の組織化が必要である。

◇文化協会によるクラブ活動支援 群馬県 須田澄男

文化協会によるクラブ活動支援  
生涯学習・教育支援活動についての調査と考察(その3)より

 群馬県 須田澄男

 赤城山の西麓に位置する赤城村には石器時代の滝沢遺跡など国指定の遺跡が4箇所、県指定が5箇所、村指定が15箇所と豊かな文化財に恵まれており「みどりと文化財の里赤城村」と標榜している。昭和50年に退職校長S氏の尽力により文化協会が設立され
  文化財保護思想の普及
  文化団体の育成と自主活動の推進
  地域の芸術文化を高める行事の開催
等を活動の基本に据えた。


  現在文化協会の組織は22の部と900余名の会員が個性を発揮し活動を展開中である。


  平成10年度に村立赤城南中学校では、「開かれた学校の創造」を目指し、必修クラブ活動の指導を村の文化協会に依頼してきた。それぞれの道の達人達も最初は躊躇していたが、全面的に協力することになった。これは県下では初めての試みで、学社連携による教育活動として注目を浴びた。


  教委と協会が学校現場と忌憚なく相談し、先ず中学生の希望や考えを重点的に取り上げるとともに、地域の特性を生かすなど発想の転換を図り、初年度は異色のクラブとして歌舞伎・凧作り・茶道・手話など12部で発足。各クラブで3年間程度の活動の内容と指導計画を立案した。具体的内容は生徒と相談し、生徒が主体的に活動できるよう特に配慮し、クラブ活動の時間や放課後を使って実施した。平成13年度にはクラブ活動が廃止、新たに「総合学習南中タイム」を設定し、年間9回、2・3年生を継続指導することになった。


具体例1 歌舞伎部は退職校長S氏の肝入りで、文化協会古典芸能部の錚々たる面々が4年間にわたり指導した。平成13年度の国民文化祭「農村歌舞伎inあかぎ」の公演を国の重要有形民族文化財である上三原田の回り舞台で堂々と演じた。この国民文化祭に南中学校では全員参加とし、大正琴部は幕間に演奏、茶道部は来客の接待、隣のテントでは、囲碁部・将棋部が来客と対局した。田圃には10mの大凧が舞い、菊花部・ガーデニング部が会場周辺を花で飾り、文化祭を盛り上げた。テレビや新聞で全国的に報じられ、好評を博した。


具体例2 囲碁部は退職校長4名を含む10名が40名の生徒を指導した。囲碁を全く知らない生徒が対象で、入門から初級の指導を丁寧に実施。ベニヤの九路盤を生徒と作り、基本の指導をした。2学期からは十三路盤で石取りゲーム、生徒達はゲームの面白さに時間の経つのも忘れ熱中する。2年目には十九路盤で本格的に配石や形、定石や手筋など生徒の理解や進歩の度合いに応じたグループ別指導をした。数名の級位者には徹底した実戦指導を実施する。3年目の平成13年度群馬県中学校囲碁将棋大会に初参加し、準優勝と3位という輝かしい成果を挙げ、県下の耳目をひきつけた。


  以上赤城村文化協会が総力を挙げて行った南中での学校教育支援活動を概略説明した。2つの事例は退職校長が率先して生徒に関わって挙げた成果を特記したものである。今後は教委・学校と地域が連携を密にして推進するさらなる具体策を検討中である。

福利厚生部活動報告

福利厚生部長 内 田   修

 本年度は、平成15年度秋の生存者叙勲から新しい栄典制度が適用されること、5年毎に改訂される年金制度の見直しが行われる年に当たるなど、福利厚生部にとっては、これらに関わるニュースから目の離せない年であった。部長、副部長はじめ大幅にメンバーが入れ代わった部員構成で、平成15年度要望書作成、福利厚生関係の情報収集と状況分析、来年度実施予定アンケート調査の内容項目の検討等の活動を行った。

1.文部科学省へ要望書の提出
  平成15年8月7日 下記の内容の要望書を遠山敦子文部科学大臣に提出した。
(1)退職校園長の力量を生かし、文部科学省の設置する審議会、研究協力者会議等の構成員への登用、教育委員や学校評議員等への任用について格別な措置を講じられたい。
(2)年金制度の改正に伴い、「再雇用・再任用制度」の充実・促進に尽力されたい。
(3)春秋叙勲に当たり、義務教育関係者やそれに準ずる者を重視されたい。

2.厚生労働省へ要望書の提出
  平成15年8月7日 下記の内容の要望書を坂口 力厚生労働大臣に提出した。
(1)公務員制度の一環としての「共済年金制度」を堅持し、長期給付に係る財政の安定化のため、適正な負担と給付の維持に努められたい。
(2)平成15年度の公的年金は、前年の消費者物価指数の下落分0.9%が減額された。ついては、特例措置により改訂を据え置いた平成12年度、13年度、14年度の年金額の遡及減額は厳に避けられたい。
(3)医療保険制度の改定にあたっては、高齢者の保険料負担や患者一部負担金等に特段の配慮をされたい。
(4)介護保険制度については、基盤整備を含め、要介護者のニーズに適切に応えるよう、円滑な運用と実施に努められたい。

3.栄典制度の改革について
  今秋の叙勲から、数字の等級区分の廃止や簡素化を柱とした新しい栄典制度が実施された。春の叙勲者を含め、今年度、教育功労が認められた叙勲受賞者に心よりお祝いを申し上げたい。
  全連退としては、昨年度、新制度の実施を前に叙勲枠の拡大などの要望を行った、しかし、その結果は期待を満足させるものではなかった。文部科学省が都道府県の栄典事務担当者を集めての事務説明会は、平成12年6月に実施されて以来、行われていないという。このことは、事務手続きなどには改革はなされていないということである。来年度は、各都道府県退職校長会のご協力をいただき、叙勲の実態を調査したいと計画している。その結果を、具体的な要望につなげていきたい。

4.再雇用、再任用に関する情報
  年金受給年齢の引き上げは、校長退職後の生活に大きな経済的負担、不安をもたらすものとなっている。その解消のために、再雇用、再任用制度の実施、充実が強く望まれるところである。これら制度の実施状況についても来年度調査を予定している。
  本年度は、神奈川県の再雇用の実態について報告し、参考に供したい。
  平成15年11月10日、県教委に希望票を提出する。その内容は、次のようである。
   1 再雇用希望の有無  2 再就職先(職場、職種)の希望
   3 勤務条件について  4 特技、資格等
   5 再就職問題についての要望、意見等
  希望表のまとめ
   1 退職者数  272名
   2 再就職希望 希望あり 226名  希望なし 31名  自分で探す 15名
   3 特  技  パソコン 運転免許証 その他免許証 等
  勤務年数は、県教委関係、 2年、横浜市 4年、川崎市 3年 と決められている。
  昨年度の主な再就職先は、博物館(指導員) 図書館(資料調査員) 体育センター(非常勤職員) 教育を推進する県民会議(教育指導員) 教育相談室(教育相談員) 教育事務所(教育相談員) コミュニティハウス(館長) 教育総合相談センター(相談員) 学校給食会(給食相談員) 市総合教育センター(教育相談員) 幼稚園(園長) 教育研究所(教育相談員・生涯学習指導員) こどもセンター(事務) インターナショナルスクール(校長) 教育公務員弘済会(事業推進部長) 等となっている。ほとんどが公務で、職種としては相談員が多い。ちなみに、民間は4名を数えるのみであった。なお、パソコンなどの特殊技能を持った者は優遇されている。一方、就職先が自分に合わず、早期に辞める者もあった。
  課題としては、勤務年数の短いことがあげられる。特に県教委関係は2年ということで、それを終えてから再び職を求める人もでてきている。

5.上寿会員への記念品
  平成16年、百歳を迎えられる上寿者は39名と報告された。まことにおめでたいことである。上寿会員には、昨年から、記念品として右の写真にある文庫をお贈りしている。
  大きさは、約35×26×9 cm、紫檀製、桐箱入りである。

部長 内田  修   副部長 並木 和男(神奈川県)
部員 宇津木順一   小川嘉一郎  鴻田 好通  中山 正彦

「学校を考える」

教育課題検討委員会委員長 渋 谷   安

 委員会について:平成7年度に設立され、昨年の平成14年度まで存続した「中教審対策委員会」は、その名称から中央教育審議会(中教審)の答申や審議中のことを中心に、全国連合退職校長会としての検討をして、その結果を提言し公表してきた。
  しかし、教育に係わる様々な課題に対して広く対応して検討し、研究・協議することができないところがあったので、本年度から新しく「教育課題検討委員会」を発足させた。

1.研究テーマ「学校を考える」
  現在、教育課題を多数かかえているのは学校である。われわれ退職校長の団体である全国連合退職校長会として研究協議を進める必要がある検討課題である。
  そこで、新しく発足した本委員会は「学校を考える」を研究テーマとして、義務教育の学校について次のような視点を設定した。
  ・「学校」の目的と設立要件を考える。
  ・「学校」の管理と運営について考える。
  ・「学校」における教育内容と方法を考える。
  ・「学校」の教職員の在り方を考える。
  ・「学校」と児童・生徒との係わりを考える。
  ・「学校」の施設・設備を考える。
  ・「学校」と家庭、地域社会との係わりを考える。
  特に今年度は、主に「学校」そのものについていろいろな視点から検討し、研究・協議を進めていくこととした。対象は、公立の小・中学校を中心に高等学校も考えていく。

2.研究テーマ設定の理由
(1)学校の定義
  義務教育での「学校」は、先生が子どもの集団に対して、授業を通して学習することを教えるところであり、子どもが同年齢の集団で学習をし、規則を守って生活するところである。多くの子どもは学校が好きで、学校へ行くことを楽しみにしている。
  その「学校」については、教育基本法にも学校教育法にも定義されていない。学校教育法では、「学校とは、小学校、中学校、……とする」と表記されていて、ともに「学校」そのものについての定義や説明はない。

(2)学校がもつ課題
  現在、「学校」には次のような多種多様な課題が存在している、その中で特に重要と思われる課題を取り上げて研究・協議を進めたい。
〔1〕目的と機能に係わる課題
  学校教育目標、校則、教育課程、学校の機能、生涯教育との関連等。
〔2〕教育内容・方法に関する課題
  教育課程の編成、学習指導要領、学習指導法、生徒指導、学校行事、授業時数、2学期制、ゆとりと学力、○○教育といわれる指導等。
〔3〕教員に係わる課題
  教員の資質、教員養成制度、教員採用、教員研修、教員の多忙、一般人の教育参加等。
〔4〕子どもの実態に係わる課題
  学習意欲や学習習慣、基本的行動様式、しつけ、集団生活への適応、実体験不足、多様な考え方、学級崩壊、要教育支援、不登校、反・非社会的行動等。
〔5〕管理・運営に関する課題
  管理職の資質、管理職研修、管理運営規則、学校評価、学校評議委員会、説明責任、保護者、地域との関わり、危機感と安全対策、多職種の学校勤務者、民間人校長等。
〔6〕施設・設備に関する課題
  校舎、教室、校庭、キャンパス、教材・教具、教育機器、遊具等。
〔7〕教育の役割分担に係わる課題
  家庭・地域との教育役割分担と連携、保護者の多様な価値観、学校以外の教育関係施設との連携、学習・進学塾、不登校者対象施設等。
〔8〕教育行政に関する課題
  教育関係法規、義務教育制度、学級人数、教員定数、通学区域、学校選択制、学校週5日制、小中一貫教育、中高一貫教育、教育特区、教育委員会、地域運営学校、コミュニティスクール、チャータースクール等。

3.「学校」は何のためにつくられたのか(目的・必要性)
(1)学校の発生と発展の歴史的な過程
・子どもたちに生活の技術と自分たちの部族や郷土や国の維持・発展のための意識や観念を育て、実践させるため。
・特別な特権階級(王族、貴族、僧侶など)が、その階級と権力や地位を維持していくための希少価値(知識・技能・態度)をその子弟の身につけさせるため。
・専門的な教育を受けた人材を必要とした支配者が、将来の要員を育成するため。
・子どもに現在生活している社会で生活していくために必要な、知識・技能・態度を身につけさせるため。
・時代が進んで社会的・経済的な生活の発展に伴い、複雑化・多様化した社会では、親が家庭の中だけで、子どもに必要なことがらを総て教えることは不可能であるために、意図的な教育を行う場として。
・近代的な統一国家の成立に伴って、国家的な枠組みの中で、文化を伝達し、社会を形成する国民の育成を目的として、統一的な学校制度を制定した。

(2)学校の目的
  子どもの成長のために学校に求められているものは、次のことである。
・人間社会の中で生活するための能力と知恵の育成。
・その時代の生活とともに未来を拓くために必要な、基礎・基本の学力である知識、技能、体力、健康、道徳等を身につけさせる。
・その国の文化の継承者としての知識・技能・態度の習得。
・国家や社会を形成する国民・市民としての自覚と資質の育成。

(3)学習指導要領の改訂にみる学校教育の重点の変遷
  昭和33年から学習指導要領が制定されて、学習指導の基準の法的根拠が示された。
  学習指導要領が示す学校教育の重点は、その時の政治的・経済的な要求を背景とした社会の要望と風潮が如実に現れており、その時の学校の教育の目的とされている。
昭和22・26年(試案):教員の指導を中心とした一斉画一的な知識の詰め込みを反省して、児童の自主的な学習を重視する。
昭和33年:児童に自主的な学習の偏重を反省して、基礎の系統的な学習指導を重視。
昭和43年:科学技術の急激な発展に対応して、学習指導内容の現代化を重視する。
昭和52年:現代化の名の下での知育偏重を反省して、豊かな人間性(ゆとりと充実)を重視する。
平成元年:急激に変化する社会への対応を考えて、個性を尊重し、創造性の育成を重視する。
平成10年:生きる力を目指して、自ら学び自ら考える力を育むとともに、基礎的・基本的な内容の確実な定着を図る。
  学習指導要領の改正は、その時の社会の要望の影響を受け止めているだけでなく、その度に、偏りも生じたために、その偏りを是正している。

4.「学校」は何をするところなのか
(1)学校とは
・一般的規定=生涯学習体系の場のひとつであって、一定の教育目的のための教育内容について、個人を対象に組織化された教育を受ける人の集団に、組織的・計画的に教育を行うために、教育する人(先生)と管理・運営をする人(校長)がいて、そのための施設・設備(教室・教材・教具)があるところ。
・義務教育公立学校=教育基本法に示されている教育の目的を達成するための教育体系の一環として、9年間の普通教育を受けさせるために、6歳から14歳までの子どもを対象として同一年齢で組織された集団に対して、国が示す学習指導要領に基づいた教育課程を編成して教育するところ。
  教員は、教員免許状を持ち、教育委員会が行う教員採用試験に合格した者が、法律や条例が定める定員に従って配置される。
  学習指導には必ず教科書を使用することが定められており、教育委員会が選定した教科書が使用され、無償である。
  施設・設備と管理・運営は、法律や条例によって定められている。

(2)学校の機能
  以前、学校は地域の文化の中心で、地域の誇りでもあり、「おらが学校」といわれる価値があるものであって、一般の家庭にはない、いろいろな図書や道具や器具があり、子どもたちがそれらに目を輝かせていた。また学校が行う行事は、地域のイベントでもあって、特に運動会は地域の人々に楽しみと連帯感を与えるものであった。
  しかし、今は、都市化・情報化の進展に伴い、地域との関わりも少なくなり、文化の中心といえる状態が薄れていく傾向にある。
  そのような現状ではあるが、学校には子どもの教育のために持っていなければならない基本的な機能として次のことが考えられる。
・子どもたちの心と身の安全を確保する。
・人の一生の中にある生涯学習の一過程として、国の教育目標に向かって教育する。
・意図的・組織的に、継続して発展的な秩序ある教育活動を立案・計画し、実施する。
・子どもたちの個々の個性を尊重しながら、個人を対象とした集団での指導をして、社会に適応し、創造する力を育てる。
・家庭・地域と役割分担をして、相互に連携・支援をしながら、子どもの教育にあたる。

(3)学校に求められているもの
  現在の社会の変化や世論、教育関係者や保護者たちの期待や要望から、次のことが学校に求められている。
・自主性と自立性を育て、基礎的・基本的な学力を身につけさせる。
・社会の変化に、主体的に対応できる能力を身につけさせる。
・健康に留意させ、体力や運動技能を身につけさせる。
・集団の中での人間関係の在り方に気づかせ、協調性と共働の意識を育てる。
・自然や環境に目を向けさせ、自然や環境を大切にする心を育てる。
・生命の尊厳と尊重を自覚させ、宗教的な情操を育てる。
・郷土愛や国を愛する心と国際性を育てる。

(4)学校はどうあるべきか
  以前の学校には、地域と一体感があり、力と権威があって尊敬される一面もあり、保護者からは一目おかれる絶対的な面もあった。
  それらが現在は多少疎んじられ、権威も薄れてきている。改めて新たに地域の教育機関としての権威を得るためには、次のことが必要である。
  ・地域から信頼される学校を目指して努力する。
  ・教員としての権威を回復し、子どもたちから尊敬されるよう努力する。
  ・入学試験のための学力ではなく、人間として生きる力を育てる。
  ・家庭・地域との役割分担を明確にして、相互に連携・支援する。

5.今後の研究の進め方
  今年度は、「学校」そのものについて、いろいろな視点から自由に論議し研究・討議を進めてきた。そこで、今後は「学校」がもつ具体的な課題や問題点について検討を深めていきたい。そのために、「学校の目的・機能」「学校における教育内容・方法」「教員に係わる課題」について研究・協議を重ねていく。

委員長 渋谷  安  副委員長 白土 四郎(千葉県)
委 員 荒井 忠夫  片岡 敦子  金井 忠雄  武田 公夫  津村  靖     目賀田八郎 
総務部長 廣瀬  久  戸張 敦雄

「教育の日」制定 <地図>