はじめのことば    全国連合退職校長会 会 長  土橋荘司

新潟県中越地震及びスマトラ沖地震・大津波によって、亡くなられた方々は勿論、その遺族に対し、また、現在も避難生活を続けている方々に、心よりお悔やみとお見舞いを申し上げます。

例年の通り“はじめのことば”を書き出してみると、一番印象的に頭に浮ぶのは、自然現象で、豪雨、大型台風、梅雨季が長く続く、更に猛暑が続く等のことだが、その原因は、今までと地球の回転軸が変ったためか、また海水が高温になった現象がかつてない地球上に大きな災害を及ぼしている。

また、私たちはいま、混迷を極め、先行きの見えない「不安の時代」を生きている。豊かなはずなのに心は満たされず、衣食足りているはずなのに礼節に乏しく、自由なはずなのにどこか閉塞感がある。やる気さえあれば、どんなものでも手に入り何でもできるのに、無気力で悲観的になり、なかには両親をも殺すというあってはならない犯罪や不祥事に手を染めてしまう人もいる。そのような閉塞的な状況が、社会を覆いつくしているのはなぜだろうか。それは、多くの人が生きる意味や価値を見いだせず、人生の指針を見失ってしまっているからではないだろうか。今日の社会の混乱が、そうした人生観の欠如に起因するように見えるのは、私だけではないと思う。そういう時代にもっとも必要なのは“人間は何のために生きるのか”という根本的な問いではないかと思う。まず、そのことに真正面から向い合い、生きる指針としての「哲学」を確立することが必要である。哲学とは、理念あるいは思想などといいかえても同じことと考える。

また過去の研究報告を反省してみると、一年間の実績を残し、後の社会に役立つと共に、これからどのように研究を進めるかを深く反省してみる時期に来ているように思う。それぞれの部会において、理想的な研究と考え発表しても、それをよく吟味して読んで、自己の責任と認識して会員が実行してくれなければ余り意味がないと考える。そこで本年はページ数も減少し、読み易く、目次を工夫し、主張する主旨を明確にするなど、勇気を持って時代におくれない努力をつづけた。よろしく協力いただきたい。

最近、ホリステック教育がいわれているが、これは“つながり”“ふりかえる”を重視する。単に見つめ直すという教育のみでなく、もっと次元の高い宗教的な情操、心情に入り込んでお互いが生き生きとした手応えを感じ合うことを言う。更に年をとると他よりすぐれている心を、姿勢を低めて反省して行くことをふりかえるという言葉で述べていることを胸にきざむべきである。

1.総務部の活動   総務部

〈要   点〉
設立40周年を記念して「全国連合退職校長会 綱領」を制定した。

部長   廣瀬 久(東京都)
部長   戸張敦雄(東京都)
副部長 八木原勝可(群馬県)

 本年度は、全国連合退職校長会設立40周年に当たる年である。そこで、本年度も部長二名体制で、平成16年6月16日の理事会、同17日の総会において承認された本年度の「目標」「事業計画」に基づき活動をしてきた。以下、活動の主なものを述べる。

1.平成16年度の「目標」(案)を作成し、総会で承認を得た。
  前文省略、以下7項目(要旨)。
(1)設立40周年を記念する事業を推進する。
(2)「教育の日」の制定と、その内容の充実に努める。
(3)教育基本法の改正を求め、「教育憲章」の具現化に努める。
(4)生涯学習の在り方の研究と、実践事例の収集・活用に努める。
(5)叙勲、再雇用・再任用の調査、共済年金制度の堅持、栄典候補者枠の拡大、
   高齢者医療制度の創設等に関する要望。
(6)組織の拡充と活動の活性化を図る。
(7)教育関係諸機関・団体との連携・協力に努める。

.平成16年度の「宣言・決議」(案)を作成し、総会で議決された。宣言文(略)
一 国民挙って教育の在り方を考える日としての「教育の日」の制定と、その充実に尽力する。
一 教育基本法の改正を求め、「教育憲章」(案)の具現化に努める。
一 生涯学習の推進と充実のための諸方策を研究し、その実現に努める。
一 共済年金制度の堅持、栄典候補者枠の拡大、更に、高齢者医療制度の創設等、
   会員の福祉の向上に努める。
一 組織の拡大、充実を図り、いっそうの活性化を目指す。

3.第40回 定期総会及び理事会、副会長会、常任理事会等各種会合の企画・運営・司会を行った。
 従来は、副会長、常任理事それぞれ一泊の会を実施していたが、本年度は、7月に副会長・常任理事が合同一泊。初日は合同、翌日は別々に会議を行った。

4.文部科学大臣に「要望書」を提出、意見交換をした。
 平成16年8月3日、文部科学省に河村建夫文部科学大臣を訪問。同大臣に直接「要望書」を渡し、大臣と意見交換をした。
「要望書」の主な内容(要約)は、次頁の通りである。

I.教育上の諸課題解決に関する要望。
1 .教育基本法の改正の推進。
2 .「義務教育国庫負担制度」及び「人材確保法」の堅持。
3 .「教育の日」の制定の主導。
4 .教員免許の授与に国家試験を導入、教員免許の更新制とそれに伴う処遇の改善。
5 .学校の自主性、自律性が発揮できるよう、教育委員会との関係に特段の配慮を。
6 .学校教育、家庭教育、社会教育の役割と責任の明確化と連携強化。
7 .教育に関する諸施策の企画、実施に当たり、校園長会の意向尊重。

II.学校教育の振興に関する要望。
  1 .「豊かな心の育成」のため、各学校に「道徳(倫理)主任」の早急な必置を。
  2 .完全学校週五日制の実施に伴う諸課題解決のため、この制度の弾力的な運用を。
 
III.退職校園長の活用及び福利厚生等に関する要望。(福利・厚生に関する要望は、このほか、別途、厚生労働大臣宛て提出)
  1 .文部科学省の設置する審議会、研究協力者会等の構成員に、退職校園長の登用を。
  2 .春・秋叙勲に当たり、義務教育関係者やそれに準ずる者を重視されたい。

5.「全連退情報」の発行、「年間活動・研究報告」の編集・発行。

6.全国連合退職校長会綱領が総会で制定された。
   設立40周年記念事業として、「綱領」(案)が満場一致承認され、制定された。

2.教育憲章(案)の普及推進活動    教育振興対策部

〈要   点〉
教育理念を明確にし、教育の規範となる教育指針を打ち出した「教育
憲章(案)の持つ教育力を感得する内容である。

 「教育憲章」(案)の検討と普及活動  

教育振興対策部長 富 山   保

1.本年度の活動の概要

(1)「教育憲章」(案)の普及 ─ より多くの人に知ってもらうために
「教育憲章」(案)は、日本の教育の指針であり、国民の実践規範というべきものである。同時に教育基本法の理念をより具体化したものである。「教育憲章」(案)の理解を深めるために、各都道府県の協力を得つつ、より広く、趣旨の普及に努めた。また「はがき返信」をはじめ多くの意見をいただいた。

(2)「教育憲章」(案)を利用できる(する)可能性を探る ─ 効果の検証
「教育憲章」(案)を世間一般にその成果を深めていくために、「教育憲章」(案)の理解、活用の方策を研究・実践した。その一環として、12月に「教育憲章がらみの学校見学」を実践し、「教育憲章」(案)の利用推進を図った。

(3)部員の学習として、「教育憲章」(案)の「第2項目」と「第4項目」の研究・理解 

教育憲章(案)

 われわれは、教育基本法の精神を踏まえ、日本の教育の指針として、この憲章を定める。日本の教育は、個人の尊厳、生命に対する畏敬の念を重んじ、日本人としての自覚と誇りをもち、世界の平和と文化の創造、人類の福祉に貢献できる主体性のある国民の育成に努めなければならない。

(1)人間尊重の精神にのっとり、一人ひとりを大切にして、自己の確立を目指し、
   心身ともにたくましく生きる力をもつ。
(2)豊かな日本の自然を愛護し、情操を培うとともに、地球環境の保全に尽力する。
(3)優れた日本の文化や伝統を尊重し、異文化への理解を深め、豊かな文化を創造する。
(4)美しい日本のことばを大切にし、礼節を重んじ、豊かな人間性を形成する。
(5)誠実さや勤勉さを大切にし、勤労の意義と奉仕の尊さを知り、共に生きる喜びをもつ。
(6)和の精神と思いやりの心をもち、温かな家庭と心の通い合う地域社会を形成する。
(7)善悪の判断を正しく行い、社会の一員としての自覚と責任をもち、正義の実現と社会の発展に尽くす。
(8)向学心に燃え、真理を求め、社会の変化に対応して、生涯にわたり、主体的に生きぬく力をもつ。
(9)民主的な社会及び国家の形成に努め、世界の人々と協調・協力し、世界平和の確立に尽くす。

2.「教育憲章」(案)の解説について共通理解を図るための学習

(1)文化審議会答申「~の次代に求められる国語力」と第4項目の解説との関連考察
①「美しい日本のことば」について
・ 「ご縁があって」「おかげさまで」といった人間関係を大切にした情緒ある表現は、日本語特有のものと言える。答申にいう「個人の知的活動、感性・情緒、コミュニケーション能力の基盤」の確立に関して、美しい日本のことばを大切にするという視点が重要な要素となる。
・ 日本語の表記は、漢字・国字、かな文字等があり多様な表現ができる。この特質を発揮して、美しい日本のことばを十分に生かすようにすることが大切である。答申は「国語教育を学校だけでなく、社会全体の課題としてとらえていくことが必要」としているが、ここに着目した実践化を図ることが考えられる。
②「礼節を重んじ」について
・ 礼節もまた生活感情や文化に育まれ、ことばと関連して重んじられてきた。礼節を重んじることは、豊かな人間性の育成にとって極めて大切である。それは、個人の資質の向上とともに、豊かな人間関係をも向上させる。「没落していく民族が、まず初めに失うものは節度である」(A・シェデフター)ということばに注目したい。
・ 敬語に関しての教育の検討が大切である。家庭や地域との連携も考えたい。
・ 礼節を重んじることについて、学校現場では「あいさつ」を通して取り組んでいる例が多いようである。

(2)前文及び第2項目との関連「宗教的情操」の学習
① 情緒と情操について
   情緒は、喜び・悲しみ・怒り・恐れ・驚きなど身体的な表れを伴なう感情の動きで、「情感」ともいう。それに対して情操は、美的・芸術的、倫理・道徳的、知的、宗教的などの価値を含む感情で、情緒に比べて格段に複雑な感情(精神的な働き)である。さらに情操は、人の日常生活の在り方(態度)に深く関与して個人の生き方を左右する。
②「宗教的情操」について
   「教育憲章」第2項目の解説の「~自然の美しさ、神秘さなど、人間の力では及ばない偉大なものを感じ~」は、1963(昭和38)年の教育課程審議会答申の提言“豊かな情操─特に宗教的、芸術的情操─の涵養の必要性”に関連の深い文言と考えられる。
   人が星空を仰ぎ、大海原を凝視し、人の生死に遭遇する時、自己を越えた絶対者(永遠に中核的と考えられる存在・原理)を感じ崇高な思いにとらわれる。とすれば、それは宗教的情操が働いたということである。宗教的情操が、他の情操と根本的に異なる点は、自己否定(己れの空しさなどの感情、自然に対する畏敬の感情など)を通して自己肯定(生かされて生きていることの自覚一啓示感・解説<回心>感・敬虔の感情など)に達するところである。それによって、他者に対する寛容・感謝・尊重などの感情や態度が生活面に表れる結果となり、ひいてはより柔軟・自発的で、統合的な人格の形成に繋がる。
   宗教的情操の育成のためには、自然との深い触れ合いの経験や読書による啓発、さらに家庭での宗教的経験などを幅広く取り上げた教育の工夫が大切となろう。

3.「教育憲章」(案)がらみの学校見学

実施の概要 「教育憲章」(案)の利用促進を図る一環としての学校見学。(H. 16.12.1)
見学の目的 
  ①子どもの実態、教職員・保護者の意識からみた「教育憲章」(案)の内容、表現や「教育憲章」(案)を
    利用できる(する)ことの可能性について、意見交流を行う。
  ②部員が肌で感じたものを基に、学校教育の現状についての理解を深める。
見学先
   東京都北区立岩淵小学校 (校長)木村良平 (教頭)大芦和子

(1)学校概況説明
(校長)本校は昭和13年開校、創立67年を迎えた。この地域では歴史ある学校である。児童数239名、9学級。職員数22名であり“花の岩淵”といわれる程、30年間全校花づくり活動を続けている。現在文部科学省の理科教育推進モデル校。
①学校の教育目標 
   ○ 思いやる子 ○ 考える子 ○ 元気な子 ○ 最後までやりぬく子
②めざす児童数  
   ○ 豊かな人間性に満ちた子ども(笑顔がある子)
  ○ 学びの姿勢のある子ども(ひたむきさがある子)
  ○ 礼儀に篤い子ども(ことば遣いが丁寧で、行いに慎みのある子ども)
③めざす学校像  
   ○ 心なごむ学校 ○ 学びが楽しい学校 ○ 愛される学校
④経営の基本姿勢 
   「和を以って貴しと為す」の理念のもと全職員、保護者、地域住民の協力、連携で学校経営に当たる。方針を立てたら粘り強く確実に遂行するよう努める。

(2)授業及び施設見学
6学年の算数の少人数指導(比例)、4年生の書写指導、校舎内外の施設を見学。
※授業は指導法の工夫と安定した児童の学習態度が見られ、校長先生の学校概況説明や意見交換では学校が地域・外部に開かれていることを実感した。

(3)「教育憲章」(案)の内容の活用についての意見交流
○ 今までの教育には、日本人としてのアイデンティティを育てることが欠けていた。
   将来を見据えた、子ども達を育てるために、9項目の一つ一つが大切であると思う。
○ 率直に言って、「教育憲章」(案)は気に入った。それは本校の学校経営の方針、
   教育目標がうたわれているからである。例えば「項目6」の和の精神や、
   本校の環境学習─環境モラルの育成など「項目2」そのものである。
   「項目5」の日本人の勤勉性や奉仕の心は、本校では、荒川の清掃活動、
   高齢者との触れ合いで行っている。
○  「教育憲章」(案)の活用については、学校では教育目標は何年間か変えないにしても、
   それの吟味検討は、年度末には行っている。その際「教育憲章」(案)は大変参考になると思う。
   また学校の統廃合に伴って、新しい学校ができ教育目標を設定する際にも利用できると考える。
○ 保護者会などで「思いやりの心の大切さ」をお話する時、「項目6」の解説を紹介しながら保護者に訴えたい。
※以上学校側から意見をいただいた。校長先生の識見の深さに敬服するとともに、「教育憲章」(案)の活用についても、示唆を与えられた。学期末多忙の中、私たちに快く見学の機会を与えて下さった校長先生はじめ諸先生方に、心から感謝を申し上げたい。部員にとっても学ぶことの多い一日であった。

4.「教育憲章」(案)普及活動の状況

(1)各種集会における普及活動

○ 東京都退職公務員連盟練馬支部理事会(55名)「教育憲章」(案)を配布し、概要説明、普及の協力依頼。
○ 墨田区立学校教務主任研修会(40名)講演会。各学校の教育課程編成の参考の資料として、
   「教育憲章」(案)を配布し概要を説明。
○ 茨城県真壁・大和地区教育研究会(50名)「教育改革と学び方教育」講演会。「教育憲章」(案)を、
   学校経営の実践に参考にして欲しい旨話した。また、学級担任の先生方には、教育の指針として
   役立てる必要を強調した。
○ 練馬区研究主任研修会(90名)講演会。研究推進上の教育規範として「教育憲章」(案)を
   生かして欲しい。また、教育の理念を明確にして取り組むことを求めた。
○ 東京都退職校長会埼玉県支部総会(60名)「教育憲章」(案)について説明。周知普及を要請した。
○ 千代田区幼・小・中退職校園長会(51名)総会。「教育憲章」(案)を配布し説明。
○ 東京都退職校長会北多摩北部支部役員会(30名)「教育憲章」(案)説明後、
   会員各自が近隣に広めて行こうと話し合われた。
○ 世田谷区退職校長会定期総会(90名)「教育憲章」(案)について活発な意見交換が行われた。
   訪問を喜んでもらい、全連退の活動の様子を理解いただいた。
○ 板橋区退職校長会役員会(20名)予定以上に時間をとっての説明会で、「教育憲章」(案)についての
   解説ができた。
○ 東京都退職校長会狛江支部長宅を訪問。「教育憲章」(案)について説明、教育振興対策部の
   活動状況も説明した。

(2)「教育憲章」(案)の説明会に参加した方の感想・意見

○ 大変立派な内容で同感です。この綱領を十分周知され、社会の精神的基盤の確立を切に願っております。
   よき日本を取り戻すことが大切なことです。特に指導者層の社会悪は日本を悪くするもので許されません。
○ 「教育六法」「児童憲章」と対比しながら考えました。この「教育憲章」(案)は素晴らしく良くまとまっている
   と思います。ただ、いくら立派なものでも国民全部の人が、この内容を知り、理解されなければ、
   ただの作文に終わってしまうと思います。私たちも仲間・地域に広めていくように心掛けねばならない
   と思います。安心して暮らせるための人間育成教育が必要です。
○ 「教育憲章」(案)では、「国連憲章」を連想して「教育基本法」より上位に思えて、それを補完?
   する趣意が講じられないのかと思いました。「教育の日」との関連はどうなのかなどの感想をもちました。
○ 「教育憲章」(案)の普及は、文部科学省、教育委員会、学校、社会教育、PTAなどの全国組織や
   マスコミ等のメディアに働きかけることが必要ではないか。
○ 最近の青少年のわが国の美しい文化や伝統を省みない振る舞いは、亡国の道をつき進んでいるように
   感じてなりません。
   そうした中「教育憲章」(案)の説明を聞き、わが意を得たりと、意を強くしました。忘れ去られようとする、
   「礼節」「勤勉」「向学心」「愛国心」「恥の文化再考」を培おうとする「案」は素晴らしいと思います。
○  「教育憲章」(案)の作成過程はどのような手続きをふんだのでしょうか。
  教育基本法に次ぐ重要な憲章であるのなら、国民各界代表とも時間をかけて議論を尽くし
   作成する必要がある。教育は、学校教育だけではないので…。
○  「教育基本法」改正の動きがあるこの時期に、今なぜの感じがする。
○  「教育憲章」(案)は大変良く構成されています。現在の背景から「生命尊重」「親子の愛情」
    「孝行」「友情」「愛国心」などを強調したらどうでしょうか。具体的な分かりやすい表現が欲しいと思います。

(3)説明会で寄せられた意見への対応

①「教育憲章」(案)の記述表現について
 ・主語が二つあったり、主語のない表現が見られるので修正した方が良い。
 ・はっきり言い切る表現をすべきなのに、曖昧な表現になっている箇所がある。
 ・ずばり言い切った表現が何度も繰り返されている箇所が気になる。
 ・同じ表現を多用している箇所がある。整理した方が良い。
 ・本当にこの言い方でよいのか疑問を感じる箇所がある。別の表現をと思う。
 ・解説文に飛躍している表現箇所や難解な表現が見られる。
   など、具体的で率直なご意見を寄せていただいた。さらに教育振興対策部で検討しなければと思う。
② 「教育憲章」(案)の立場について
 ・「国民の育成」の立場で述べている箇所と、「国民」の立場で述べた箇所が混在している。奇異に感じられる。
 ・前文で述べている立場と項目で述べている立場に違いがあるように思う。
   などの指摘があった。この点も検討しなければと思う。
③ 「教育憲章」(案)の普及活動について
 ・委員による普及活動はご苦労様と思う。しかし限界があるように感じる。
 ・全国に「教育憲章」(案)を浸透させるには、委員だけの活動では無理。
 ・「教育憲章」と学校現場がどのような位置づけになるのか極めて不明である。
 ・全国連合退職校長会は、あくまでも任意団体であり、この「憲章」の周知を含めて
  教育界に定着させるには相当の根気が必要かと思う。
 ・など普及活動に対する応援メッセージや、「全連退」に対する今後の活動についての提言もあった。

※ご意見を総括してみると、「教育憲章」(案)の記述表現をはじめ内容の見直しや、周知普及活動の進め方についても、吟味検討する必要を感じた。

5.あとがき

教育基本法の改正作業が本格的に動き出し民間臨調や政府与党などから改正に向けての意見が集約されていることは、いよいよの感じである。新「教育基本法」が、どれだけ日本の教育理念を明確にできるか、期待される。

しかしわれわれが求めている「教育憲章」の制定にまでは及びそうにない。教育理念を明確にし、教育の規範となる教育指針を打ち出した本会の「教育憲章」(案)を生かして教育改革を進めて欲しいものである。

本年度の活動の第1に「教育憲章」(案)の周知普及に努力してきたが広がりが思うようにいかなかった。全国各地の会員の力を借りて浸透させる必要を痛感した。今後の協力を切に願う次第である。

全連退の「教育憲章」(案)発表に前後して、先進的な地方自治体で「教育憲章」を定める動きが見られることは、喜ばしいことである。自治体のもつ個性・特色や期待をそれぞれに盛り込んだ「教育憲章」の制定の動きが全国に広がることを願いたい。その下敷きに本会作成の「教育憲章」(案)を生かして貰えばと思う。そして「教育の日」の制定と関連付けて、教育の充実・振興が図られればと思う。

第2の活動として「教育憲章」(案)の解説内容と関連のある「これからの時代に求められる国語力」や「宗教的情操」について考察・理解を深めた。

第3の活動として、学校訪問し校長・教頭先生より「学校経営方針」と「教育憲章」との関連について意見をいただいた。学校経営上「教育憲章」(案)を大いに活用し、参考にする必要があるという意見を伺い、意を強くすることができた。

今、進められている教育改革が、より確かなものになるように動向を見守り、教育振興対策部としての活動を続けることが必要である。

部 長  富山  保   副部長  今井  満(長野県)
部 員  青柳 忠克   入子 祐三   荻原 武雄   加藤 正喜
      我謝みどり   柴  英夫   清水 廣泰   深町 芳弘

3.生涯学習の在り方を探る    生涯学習推進部

〈要   点〉
生涯教育・生涯学習の流れを調べ、生涯学習の在り方を確かめた。
さらに、その論拠に立って、退職校長が関与する教育支援活動を見学し、
  感銘を受けた現地レポートを掲載している。

生涯学習の在り方を探る  

生涯学習推進部長 前 田  徹

本年度は「生涯学習の基本的在り方を研究し、その実践事例を収集して活用に努める」の目標を掲げて、毎月2回の会合をもち、次の4項目の活動を実施してきた。

1.生涯学習の経緯と発展を明らかにする
昭和40年にポール・ラングランがユネスコ成人教育推進国際委員会で「生涯教育」を提唱し、わが国でも同56年に中央教育審議会が「生涯教育について」の答申を出すに及んで、国を挙げて生涯教育・生涯学習の推進を主要な政策に取り上げて来た。

平成4年に全連退の生涯学習推進部ができてからは、教育支援活動の実践事例を収集し研究に取り組んで来た。しかしここで、以下に示すような今まで出された答申や報告書を再読して、生涯教育・生涯学習の流れを調べ、生涯学習の在り方を確かめた。

① 生涯学習の提唱(ポール・ラングランの提唱)
② フォール報告(未来の学習)
③ 昭和56年度中央教育審議会答申「生涯教育について」
④ 昭和62年度臨時教育審議会第四次答申「生涯学習体系への移行」
⑤ 平成2年度中央教育審議会答申「生涯学習の基盤整備について」
⑥ 平成4年度生涯学習審議会答申「生涯学習の振興方策について」
⑦ 平成16年度中央教育審議会生涯学習分科会審議経過報告

2.生涯学習の実践事例を収集し、その活用を促進する
今まで全国から退職校長の行う生涯学習又は教育支援活動の実践事例を集めて、平成4、5、7、8、12、15年度と継続して実践事例集としてまとめた。事例の総数は134に及んだ。設立40周年を迎えたこの機会に、すべての事例に再び目を通して分類整理し表にまとめて、今後生涯学習に取り組まれる方々が活用し易く表した。
以上1・2の成果を別冊「生涯学習への道をたどる」にまとめ12月に発刊した。

3.教育支援活動の実地見学をする
今まで教育支援活動の実践事例の報告を受け考察を続けてきたが、昨年度から支援活動の現場に出掛けて見学し、会員の創意・工夫や活動の障害等を実地で感得し支援活動の在り方を探った。昨年度から次の三ヶ所で実地見学したので次のページから記載する。

① 前橋市シルバー人材センター「みどりの教室」
② 「ボランティア・市民活動学習推進センターいたばし」の車椅子体験指導
③ 「こどもの国の支援事業」─栃木県安佐地区退職校長会

このうち③は退職校長会独自の活動であるが、①は退職校長会と地域住民との共同作業であり、②はボランティア団体の中に数名の退職校長が入って活動している例である。

4.生涯学習に関するアンケート調査
今まで教育支援活動について会員の意識を探るアンケート調査は何回か依頼してきたが、今回は広く生涯学習全般にわたる会員の意識を調査する計画を立て、今年度中に設問を作成し来年度総会終了後に全国に配布し、回収後集計に取り組む計画を立てているのでご協力をお願いしたい。

4.叙勲受賞者は退職校園長有資格者の約1%     福利厚生部

〈要   点〉
平成15年度 春・秋の叙勲で、その栄に浴された退職校園長は、有資格者の「約1%」で ある。再雇用、再任用の両制度が共に制度化されているところは、わずか7都道府県である。

叙勲受賞者は退職校園長有資格者の約1%  

福利厚生部長 内 田  修

本年度は、例年行っている関係省庁への要請活動(詳細は、「全連退会報」第153 号をご覧いただきたい)に加え、叙勲および再雇用・再任用制度の実態を知るための調査を実施した。面倒な調査でお手数をおかけしたが、全都道府県からのご回答をいただいた。厚く感謝を申し上げたい。回答は次の見開き頁に表にしてまとめた。この結果を今後、関係省庁、都道府県教育委員会への要請活動に活かしていきたい。

なお、ご覧になれば、いろいろな疑問や感想を持たれることと思う。次回の追跡調査に役立たせるためにも、是非多くの方々の、ご感想やご意見をいただきたいと願っている。

1.叙勲に関する調査
調査の内容 平成11年度から15年度までの5年間の春秋叙勲者数。平成15年度における叙勲を受ける有資格者数(退職校園長のうち満70歳から87歳までの方で、これまでに叙勲されていない生存者の数)。

調査結果と考察
・ほとんどの県で、5年間ほぼ同じ人数の方が叙勲されている。新栄典制度は叙勲者数には影響を与えていない。
・叙勲有資格者数は、概数で良いとしたが把握が難しく、「不明」や「会員のみの数」という回答もあった。
・平成15年度について有資格者に対する叙勲者の割合を求めると、約1%、有資格者100 名のうち叙勲されたのは僅か1名であった。

2.再雇用・再任用制度に関する調査
調査の内容 都道府県段階での再雇用制度の有無、条例制定の年度、制度の内容。再任用制度の有無。

調査の結果と考察
・再雇用制度が「有」という都道府県の数は僅か8都道県で、率にすると17% である。
岐阜県、東京都は比較的早い時期に制度化されている。他は、平成14、15 年度と新しい。
・再任用制度については、70%の都道府県で制度化がされている。
・再雇用、再任用制度の両方が制度化されているのは、7都道県のみであった。
本調査では、再雇用についてのみ、その内容の一部を調べた。再任用制度は、退職校長が継続して任用されないと判断したためである。ただ、再雇用と再任用制度の違いが県によって異なるかもしれないと反省している。

.長寿者数調査
平成17年に百歳を迎えられる上寿者は37名、また、米寿者は1,130名である。

部長 内田 修   副部長 小川嘉一郎
部員 宇津木順一  鴻田好通   清水章夫(埼玉県)  中山正彦

5.「教育の日」制定運動のより具体的な推進のために  「教育の日」制定推進委員会

〈要   点〉
「教育の日」が制定されていない県(地区)が制定に向けて動くことを期待し、制定手順の具体例(手順A、手順B)を提案した。さらに、1都、7県の「教育の日」を中心とした、推進事業、退職校長会の活動事例、制定までの退職校長会の活躍事例等とともに隘路も掲載した。
「教育の日」制定地図(←クリックして地図を表示)を掲載している。

 『教育の日』制定運動のより具体的な推進のために  

教育の日制定推進委員会委員長 船田 徳壽

 全国各都道府県退職校長会のご尽力とご協力により、平成16年 9 月現在の調査では、教育の日制定都県は18都県、市町村では33市町村に制定されました。さらに制定運動をすすめている地区も多く、すでに県議会に『教育の日』を請願し採択された県もあります。また『教育週間』などとして教育振興を図る活動をしている県もあります。

今後も増加の傾向が予測されます。現在、未制定道府県は29であります、制定県は各地区の運動のいっそうの推進をお願いします。ただ平成10年の全連退総会において『教育の日』の制定を決定してから 6 年の運動となりますので、当委員会では運動の在り方を反省しさらに一歩前進を図る必要があると考えます。そこで本年度は、さきに実施しました全国各都道府県の教育の日の状況調査や既制定地区の活動の様子などを参考として、制定のための方策や手順〔例〕をなるべく具体的に提案し制定運動の推進に資したいと考えました。さらに既制定8都県(茨城・東京については、要約した)について制定の過程や今後の活動方向などを具体的に提示していただき参考としていただくよう努めました。

●調査結果による未制定県の状況

(1)教育の日制定にかかわる隘路や困難点(主なもの)
ア 家庭の日、県民の日、その他類似事業との調整 9
イ 学校教育関係その他教育関係諸団体との連携や協力 6
ウ 教育の日に関する会員の意識や関心 6
エ 運動をすすめるための組織やその運営 6
オ 市町村合併の想定とその後の退職校長会のあり方 4
カ 財政の確保 2

(2)教育の日制定に向けての対策(主なもの)
ア 行政機関、教育委員会に対して、理解、協力、陳情、請願 14
イ 他団体への理解、協力、運動参加などの働きかけ 13
ウ 制定のための準備委員会、推進委員会の設置 6
エ 会員の理解や協力の促進 4
オ 啓蒙用パンフレットの作成と配布 1
カ 退職校長会本部と支部、地区との連携強化 1
キ 教育フォーラムの開催 1

6.義務教育の「学校」を考える    教育課題検討委員会

〈要   点〉
義務教育とはどんな教育か。義務とは、普通教育とは?
学校教育には、どんな意義や役割があるのか?
現在の義務教育には、どんな課題や問題点があるのか?

義務教育の「学校」を考える  
 

教育課題検討委員会委員長  渋 谷  安

1.義務教育とはどのような教育なのか?

我が国の憲法は、第26条で「国民は教育を受ける権利を有する」ことを規定し、その第2項で「保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負う」と、義務教育について規定している。

このことから、義務教育の「義務」は、保護している子女の保護者がその子女に普通教育を受けさせることになる。保護者というのは一般的には、その子女の親である。即ち、親は自分の子供を義務教育を行う学校へ行かせる義務があり、子供は義務教育を行う学校へ行く義務があることになる。

しかし、最近は、親が子供に教育を受けさせる義務よりも、国や地方公共団体が子女に教育を実施する義務であるという考え方が濃厚になっている。また、必ずしも学校で教育を受けなくてもかまわないとして、不登校についてあまり厳しく考えない風潮もあり、本来の義務についての強制感が薄れている。

子女に受けさせる「普通教育」とは、盲・聾・養護学校での「特殊教育」に対置するものではなく、「専門的教育」に対置される教育で、すべての国民にとって共通な一般的・基礎的な教育を指しており、一般市民の育成を目的とした、日常生活に必要な基礎的な知識・技能を修得させる教育である。また、わが国の普遍的文化の伝達という機能もある。

「普通教育を受けさせる義務」ということから、心身に障害を持つ子女に、盲・聾・養護学校での「特殊教育」でなく、普通の学校で「普通教育」を受ける権利があるとする考え方も強くなっている。

教育基本法は、第4条で「保護する子女に9年の普通教育を受けさせる義務」として、義務教育の年限を規定し、第2項で、公立学校では「授業料は徴収しない」という無償の原則を規定している。年限については、学校教育法(19条、22条、37条、39条)で小学校6年、中学校3年とし、満6歳から満15歳まで、と規定している。

また、中央教育審議会(以後、中教審という)は、「今後の初等中等教育改革の推進方策について」の諮問に対して、平成16年3月4日に出された答申の中で義務教育について次のように述べている。

①「義務教育の意義・役割」
 義務教育は、国民が共通に身に付けるべき公教育の基礎的部分を、誰もが等しく享受し得るように制度的に保障するものである。
 義務教育は、国家・社会の要請とともに、親が本来有している子を教育すべき義務を国として全うさせるために設けられているものであり、近代国家における最も基本的かつ根幹的な制度である。

②「義務教育の基本的な役割」
 人間として、家族の一員として、さらには社会の一員として、国民として共通に身に付けるべき基礎・基本を修得させること。
 社会的自立に向けて「知・徳・体」の調和のとれた基本的な能力を習得させ、生涯にわたる学習や職業・社会活動の基盤を形成するとともに、個性・能力を発見・伸長していくこと。
 この「義務教育の基本的な役割」で述べられていることが、まさに義務教育の根本的な理念である。この視点から現在行われている義務教育を検討する必要がある。
 文部科学省は、義務教育の根幹を、「機会均等・水準確保・無償制」であるとしており、義務教育を国の教育施策として、この視点で進めていこうとしている。

2.学校教育の意義・役割

このことについても、中教審が上記の答申の中で、次のように的確に述べている。

(1)学校の基本的な意義
① 学校は、教育の目的を達成するために、一定の計画に従って、年齢や能力をほぼ同じくする
   多数の人間に対して、組織的・継続的に教育活動を行うところである。
② 学校は、その継続的な活動を通じて、社会的伝統を維持し、前の世代の文化的遺産を
   受け継いでいくという役割をも担うところである。
義務教育における学校を、この定義から考えるときに、学校の教育目標や教育課程が、この基本的な意義を全うしているかを検討する必要がある。

(2)学校教育の基本的な役割
① 教育を受ける者の発達段階に応じて、知・徳・体の調和のとれた教育を行うとともに、
   生涯教育の理念の実現に寄与すること。
② 基礎・基本を徹底し、確かな学力の定着を図り、生涯にわたる学習の基盤をつくること。
③ 同世代の仲間との共同生活を通じて、人間性や社会性など豊かな心と健やかな体を育成すること。
④ 一人一人の長所を見出し、その個性・能力の伸長を図っていくこと。

 現在の義務教育における学校の教育内容・方法の実態は、ここに述べられている役割が充分に果たされているとはいい難い。特に、知・徳・体の調和、確かな学力、人間性や社会性について、満足が得られる教育を実施しているとは言えない状況がある。
 ここに、現在の義務教育に対して多くの国民から不満と批判が寄せられる原因があり、学校自体も苦悩している。
このような状態になった原因と背景について、いろいろな面から充分に検討して、改善を図らなければならないことは、かねてから言われていることである。
 そのためには、文部科学省をはじめ教育委員会と全ての教育機関が、この中教審の答申を真剣に受け止めて、義務教育の果たすべき役割が完全に実施されるようにしなくてはならないし、学校も一層の努力をすることが必要である。

3.義務教育の課題と問題点

現在、義務教育については、文部科学省が「義務教育の改革」を唱えて、義務教育制度そのものの変革を目指しており、小泉内閣は教育特区の制定により、義務教育制度に大きく影響を与える教育を許している。そのうえに、文部科学省が示す、学校教育の目指す方向や内容・方法は、朝令暮改の如くに変更が激しく、学校に混乱と困惑をもたらしている。

国や国民に教育尊重の気運が低下し、教育行政が教育の理論でなく、政治・経済・行政の論理で進められており、教育の本質ではなく、目先の対応に追われている。

また、学校を取り巻く教育環境にも、様々な変化が激しく、本来の義務教育の推進に大きな影響を及ぼしている。
(1)義務教育制度への課題・問題点
・通学区域を緩和して、学校選択制の導入により地域に立脚した学校が崩壊。
・各学校に特色ある教育の要求による教育内容の水準確保や平等・公平の原則への影響。
・民間人校長の導入により、教育理念でなく経済的原理による理念の学校経営。
・週5日制の完全実施と「ゆとり」による教育内容の削減からの学力の問題。
・学習指導要領に示されていない教育内容、特に小学校に英語教育の導入。
・学習指導要領の内容が達成最高基準であったのが、最低基準と性格の変更による混乱。
・小学校6年、中学校3年という学校制度の一部変更を認めることによる原則への影響。
・義務教育費国庫負担の削減・廃止による教育水準の確保や公平・平等への影響。

(2)教育環境の課題・問題点
・ 国民に日本人としての意識の低下や心情の変化があり、伝統的文化の継承や宗教的心情の陶冶が
  困難になった。
 家庭・学校・地域が有していた教育的役割が変化し、特に家庭のしつけ、地域の教育力が低下して、
  学校への依存が強くなった。
 家族構成、地域との係わり、日常生活の変化等により、子供たちにさまざまな実質的な経験が不足している。
 学校での、教員と子供の人間的な結びつきが希薄化するとともに、学校が教育内容の伝達の場になりつつある。
 人間としての資質にも問題のある教員や、指導能力にも問題のある教員が多くなり、
  全体的に教員の資質の低下がみられる。
 教員への管理が強化され、雑務多忙のためゆとりがなく、教員が授業に専念できる体制が失われつつある。
 自然環境の破壊が進み、人間と自然との共生、自然への畏怖の心など、自然を大事にする心情が
  失われつつある。

4.今後の研究の進め方

今年度は、「学校の目的・機能」を主題として、「学校でなすべきことは何か」「今の学校が抱えている課題とその原因」について研究・協議を行い、そこから、「義務教育の学校を考える」方向へ進んだ。今後は、「これからの義務教育の学校の在り方」について研究・協議を深めていき、提言をまとめたいと考えている。

委員長  渋谷  安  副委員長 白土 四郎(千葉県)
委  員  荒井 忠夫  片岡 敦子  金井 忠雄  武田 公夫  津村  靖   目賀田八郎
総務部長 廣瀬  久  戸張 敦雄

7.「教育基本法」の見直し、改正を求めて   教育基本法検討委員会

〈要   点〉
営々と研究・協議を重ねて創り上げた「教育基本法(案)」である。
やがて国会に提出される法案に、大幅に採り入れられることを期待し
ている「全連退ならではの案」である。

「教育基本法」の見直し、改正を求めて  

教育基本法検討委員会委員長  井 上  孝

平成15年3月21日に中央教育審議会は文部科学大臣に「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」の答申を提出した。

全国連合退職校長会(以下「全連退」と称す)は、ただちに法制化が行われることを期待して、文部科学省に、平成15年6月9日付で、①法制化にあたり要望したい事項。②改正教育基本法作成上の基本的な考え方。③改正教育基本法を提出した。 (平成14・15年度全連退「年間活動・研究報告」参照)

その後、最近になって政府・与党、その他の団体から改正促進の動きが見られるようになってきたので、機を逸せず、全連退でも改めて政府への見直し意見の提出を行うことにした。

そこで委員会は「次代の日本を担う日本国民の育成を目指した、よりよい教育基本法の成立」を念頭に、相次いで出された「政府与党案」「民間臨調案」など、いくつかの案との対比検討を行い「教育基本法(案)」を作成し、平成16年12月20日付で中山成彬文部科学大臣に提出した。条文及び訂正箇所、訂正理由は次の通りである。

全連退作成「改正教育基本法」と比較して  変更 追加  削除 した箇所 ※は説明 を示す。 

前 文
  われらは、人間尊重の精神に基づき、生命は勿論、人間の力を超えたものに対する畏敬の念を尊び、個人の尊厳を重んずるとともに、自然と共生しながら、国際社会に生きる日本人としての自覚と誇りをもち、普遍的でしかも個性豊かな文化の創造と、国を愛し、世界の平和と人類の発展に貢献できる国民の教育を普及徹底しなければならない。

第1条(教育の目的)
  教育は、人格の完成をめざし、個人の価値を尊び、道徳性を高め、真理を追求し、情操を培い、自主的精神に充ちた、心身ともに健康で、国家の発展と平和的な国際社会の形成に貢献できる、主体性のある日本国民の育成を期して行われなければならない。

第2条(教育の方針)
  教育の目的を達成するためには、家庭・学校・社会の役割と責任を明確にし、あらゆる機会に、あらゆる場所において以下の実現に努めなければならない。
1.学問の自由を尊重し、正義を愛し、勤労と責任を重んじ、自発的精神を養うこと。
2.日本の伝統・文化や歴史について理解を深めるとともに、異文化も理解し、自他の敬愛と協力によって、
   文化の創造と発展に貢献させること。
3.国際化や科学技術の進展に対応しつつ、自然の愛護・環境の保全、生命の尊重と心身の健康の増進に
   努めること。

※「生涯を通し」を「家庭・学校・社会の役割と責任を明確にし」と改め、家庭・学校・社会相互の関連の重要性を明確にした。生涯教育は第3条にある。

第3条(生涯教育)
  すべての国民は、ひとしく生涯を通して教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、又は経済的地位によって、教育上差別されない。
  ②国及び地方公共団体は、経済的理由によって修学困難な者に対して、奨学の方法を講じなければならない。

※「門地」は「社会的身分」に含め、又は経済的地位に「等」を付加した。

第4条(学校教育)
  法律に定める学校は、公の性質を持つものであって、国又は地方公共団体の外、法律に定める法人のみが、これを設置することができる。
  ②法律に定める学校の種類は、これを別に定める。
  法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者であって、自己の使命を自覚し、
   資質能力の向上を図り専門性を高め
、その職責の遂行に努めなければならない。
   このためには、教員の身分は尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならない。

※「②」項を起こしてこの法律に定める学校の範囲を規定した。それにともない旧案の②項を「③」項とし、さらに「資質能力の向上を図り専門性を高め」を加えて教員が研修・向上に努めるよう規定した。

第5条(義務教育)
  国民は、その保護する子女に、九年の、知・徳・体の調和の取れた教育を受けさせる義務を負う。
  ②国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料は、これを徴収しない。

第6条(男女共学) 〔削除した〕

※男女共学は、すでに社会で一般化しているので削除した。

第6条(高等教育) 〔新規に条文を起こした〕
  高等教育は、学術の中心として教養の習得、専門の学芸を享受し、専門的職業に必要な学識と能力を培う。
  ②高等教育機関は、教育及び研究水準の維持向上を図り、高等教育の目的及び使命を達成するように努めなければならない。

※高等教育の重要性に鑑み、その目的である「学芸の伝授」と「研究開発」の両面を明確にするため、新たに条を起こした。

第7条(家庭教育)
  人格形成の基本は家庭にあることに鑑み、家庭は勿論、国及び地方公共団体によって、次代を担う人づくりの推進について、奨励・充実を図られなければならない。

第8条(社会教育)
  公的機関及び、その他社会において組織的に行われる青少年教育、成人教育などの社会教育は、国及び地方公共団体によって奨励・充実が図られなければならない。
  ②国及び地方公共団体は、社会教育に資する施設の設置、学校の施設利用等学習機会の提供により教育の目的の実現に努めなければならない。

※「行われる活動や教育は」を「組織的に行われる青少年教育、成人教育などの社会教育は」とし、また「その他適当な方法によって」を「等学習機会の提供により」として、組織的に行われる教育の目的や概念規定を明記した。

第9条(政治教育)
  良識ある政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
  ②法律に定める学校の教職員は、特定の政党等を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。

※教育基本法は、国家を形成する公民を育てるための法律なので、「公民たるに必要な」を削除した。

第10条(宗教教育)
  宗教的情操を涵養し、宗教に関する理解と寛容の態度は、教育上これを尊重しなければならない。
  ②国や地方公共団体が設置する学校の教職員は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならない。

第11条(教育行政)
  教育行政は、国民に対し、直接に責任を負って行われるべきものであり、決して不当な支配に服してはならない。
  国及び地方公共団体は、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。
  ③国及び地方公共団体は、良好な教育環境の形成に努めなければならない。

※「教育行政は」を「国及び地方公共団体は」として、教育のための条件整備の責任を具体的に示した。また、③項を起こして、青少年の健全育成に最も大切な良好な教育環境の形成も国及び地方公共団体の責務であると位置づけた。

第12条(補 助)  
  教育振興基本計画の作成と教育憲章の制定がなされなければならない。
  ②その他必要がある場合には、適当な法令が制定されなければならない。

今後の展望

私達は、提案された様々な意見や、提出されたいくつもの法案を検討した結果、大きく補完が望まれたものは「家庭・学校・地域の連携」と「高等教育」の2点だけで、「生涯教育」の用語を使った提案は全連退のみであった。やはり全連退案は、多くの会員の意見の集約であるとともに、長年の研究・協議の積み重ねの成果であることを強く感じ、また、そこには必要事項が明確にまとめられていることが再確認できた。

なお、今回、全連退としては、近頃の社会環境の悪化に対して、第11条③項の「良好な教育環境の形成」を付け加えることも新たに提案した。
与党は平成17年の通常国会に法案を提出すべく事務当局に法案づくりを指示したと聞いているが、全連退の提案を大幅に取り入れた新法案を期待している。


中教審諮問「地方分権時代における教育委員会の在り方」について

 平成16年3月4日、河村建夫前文部科学大臣は「地方分権時代における教育委員会の在り方」を中央教育審議会に諮問した。その内容は次の4項目からなっている。
(1)教育委員会制度の意義と役割について
(2)首長と教育委員会との関係について
(3)市町村と都道府県との関係及び市町村教育委員会の在り方について
(4)学校と教育委員会との関係及び学校の自主性、自律性の確立について
 そのうちの(4)については、学校と教育委員会の関係で、私達が長年関わってきた学校教育の中で最も大切な部分なので、中央教育審議会に意見を提出することにした。
 今回教育基本法検討委員会がこれを担当し、検討を進めている。現在までの研究・協議は次の通りである。

1.教育委員会の在り方
①全国一律の教育条件を保障する義務教育に地方分権はなじまない部分がある。
②市町村の規模がそのまま教育委員会の質の格差にならないようにする。
③首長部局から独立した教育委員会制度が必要である。そのためには独立した予算提出権を
  持たせなければならない。
④義務教育に携わる教員人事に、校長の具申が十分生きる仕組みに改める。

2.校長の権限の強化
①学校の自主性を、自律性を高めるため、校長の権限を強化する。
②校長、教頭(副教頭)、主幹、主任の権限と責任に見合った処遇の改善を図る。

3.教員の資質の向上(人材確保)
①教員の評価を徹底し、その結果を顕彰・処遇に反映させる。
②免許法を改正し、教員免許の取得に国家試験制と更新制を導入する。

4.評 価
①適正な学校評価のシステムを確立する。

委員長   井上  孝   委 員  入子 祐三   渋谷  安
総務部長  廣瀬  久   戸張 敦雄

8.会報部の活動     会報部

〈要   点〉
共感を誘える会報の実践した項目を示している。

会報部の活動  

部 長  中 村 鎌 次

本年度の会報部活動計画に基づき、会員や各単位団体相互の理解と親近感、さらには会員の教育へ寄せる思いや願いにつとめて心を致し、共感を誘えるような会報づくりにつとめた。

本年度の活動について
(1)本年度は、会報第152号から第155号まで、年4回の会報を発行した。
(2)全国の各校園長会長よりのそれぞれの現状や課題、要望事項などを掲載し、
   いっそうの理解と連携を深めるようにつとめた。
(3)総会特集号以外は、毎号に巻頭言、提言(副会長)、地区連絡協議会及び都道府県の活動状況を掲載。
   さらに主要な会議や国への要望活動、教育情報などと共に地方紙より特色ある活動や共感を誘う記事を
   とりあげ、その掲載につとめた。
(4)新会員勧誘用として、第154号または第155号を希望する都道府県に増配した。
(5)設立40周年記念式典での会長式辞・来賓代表の祝辞、副会長の言葉、功労者一覧の掲載と共に、
   祝賀会、記念座談会の記録、アトラクションの模様などを掲載した「設立40周年記念会報」を刊行した。

部長  中村 鎌次  副部長  並木 和男(神奈川県)
部員  藤井  治  宮澤 歳男  徳永 裕人  清水  健

9.『“揺るぎない信念で”新しい学校を創る』の発行    出版委員会

〈要   点〉
本誌発行の意図を明らかにしている。

“揺るぎない信念で”新しい学校を創る
── A5版・9ポ・1段・横組み・明治図書 2,400円+税 ──

出版委員会

 朝令暮改の教育改革の渦中で、不易の理念を求めて苦慮する現職を勇気づけたいと、座談会で提起された課題を、各地の経験豊かな方に、解決の糸口を示していただいた。

内 容 発刊に当たって・目次   1~ 11
第I章 義務教育学校の役割 その阻害点と解決の理念   12~ 32
第II章 学校の教育力 再建への道(座談会)   33~ 75
     (村田昇滋賀大名誉教授・金井肇日本教育文化研究所長・会長・総務部長・委員長)
第III章 学校の教育力を回復するために、学校のなすべきことは何か   76~195
第IV章 学校教育を支える教員養成と研修   196~211
第V章 学校教育を支える教育行政    212~227
     編集後記・執筆者一覧

ぜひ、現場への推薦と、事務局への感想を
購入は、近くの書店か、直接、明治図書へお申し込み下さい。
5冊以上、一括購入の場合は、葉書かFAXで事務局へ。2,300円でお届けします。

委員長 目賀田八郎   委 員 小川嘉一郎・渋谷 安・荒井 忠夫
総務部長 廣瀬  久・戸張 敦雄

10.「データ」で見る“設立40周年記念事業”   設立40周年記念事業実行委員会

〈要   点〉
本年の大きな事業であった「40周年記念事業」の「データ」の一部を開示した。

「データ」で見る“設立40周年記念事業”  

  設立40周年記念事業実行委員会
   委員長  戸 張 敦 雄

 平成16年10月16日(土)<大安>の佳き日、天候に恵まれ、設立40周年記念式典、アトラクション並びに記念祝賀会を、滞りなく終了することができました。

関係の各位に心からお礼申し上げます。

ここに、設立40周年記念事業を、主な「データ」で振り返り、一つの『まとめ』とします。


1.記念式典   来賓(文部科学大臣、前文科相ほか) 17名
         功労者(77名の内、26名ご欠席)     51名
         役員                     50名
         各都道府県退職校長会         31名
         委員ほか                  24名  計 173名参列
    *実行委員会(東京の役員、各部・各委員会の部員、委員で構成)30名

2.記念祝賀会 来賓        10名
  祝賀会への出席者  155名         計 165名出席

3.総費用   ※ホームページ上での記載省略     

11.組織の目的を踏まえた会計を   会計部

組織の目的を踏まえた会計を  

会計部 部長 藤木達三郎  
副部長 嘉村 正規(新潟県)

本年度の全連退活動も全国会員の分担金完納へのご理解ご協力により、会計は充実した予算の運営・執行ができた。心から感謝申し上げる。

会計の基盤 
全連退会則第2条は「…各都道府県退職校長会の連合機関として、教育尊重の実を挙げ、日本の教育の振興に寄与することを目的とする」とし、さらに「現職校長会をはじめ、教育諸団体と提携して中正健全な教育世論を喚起し教育の充実発展を図る」、「教育諸団体と協力して、会員の福祉の拡充に努める」ための事業を行うことを掲げている。

会計は、以上の会則を念頭に、激動する世の動きと教育改革の動向に深く注目しつつ、創意と情熱を以て事に当たらねばならなぬと努めてきた。

設立40周年記念事業 
本年度は10年毎の式典を挙行。周年行事積立金を活用し、実行委員会・事務局の総力を結集して事を進めた。

各部・各委員会の活動 
教育現場は勿論、一般社会からも信頼される全連退となるためには、活動自体が世の注目に価するものであらねばと自覚する。例えば「教育の日」制定の動きは粘り強く全国的な広がりへと芽吹いている。出版委員会は現場の校長等を勇気づけたいと考えて、図書の発行を進めている。各部各委員会の活動いずれも意欲と創意に満ちているが、それぞれ本年度の記録を読まれ、予算配分等へのご理解を深められたい。

特別会計に関する規程 
本年度、改めてこの規程が総会の承認を得た。今後、明文化された規程を基に、運用の適正化を期していく所存である

12.事務局

事  務  局  

 事務局長  青   宏

 本年度は例年になくあわただしく、設立40周年の式典・祝賀会と、通常業務が輻そうして展開された。そこで事務局では、これを乗り切るための努力に意を尽くしてきた。総会・理事会をとおしても、今までの運営についての見なおしを必要とするところがみられたが大方は理解されたと考えている。課題は次の通りです。

(1)来年度の仕事への取り組みについては慎重に見極めていく必要がある。
来年度も、各都道府県との連帯を重視していく必要がある。

(2)各都道府県の現状を的確に把握していくことが必要である。
また、そこからの声に耳を傾けていかなければならないと考える。

(3)都道府県の現状や考え方と、わたしどもの考え方との、融和の度合いをどう調整していくかが課題である。
いま一つ気がかりなことは入会率の低下である。この課題には全国を挙げて取り組むことが肝要である

     事務局次長  中 原 慎 三  事務局職員  佐々木多美子

13.あとがき

○ 平成16年度の「年間活動・研究報告」を、会員各位並びに教育関係諸機関・団体にお届けする。
小冊子ではあるが、全連退の一年間の活動・調査・研究・提案等の要点を掲載している。いわば、結晶ともいえる内容である。
会員各位が熟読されての忌憚のないご意見、ご感想が、結晶の成長に不可欠であると考えている。よろしくお願いする次第である。

○ 今年の小誌は、記述内容をいっそう凝縮して、紙数を約20%減の40頁とした。しかし、内容が乏しくなったわけではなく、より密度を高くしたと考えている。

○ 中央教育審議会は、今、教育課程の在り方を論議し、平成18年度に「学習指導要領」の見直しの結論をまとめる予定である。「教科再編」の動きもある。この件についても、全連退としての意見を述べるときではないか。小誌を読んで思ったことである。

編集委員(50音順) 相田新太郎   青   宏   井上  孝   入子 祐三
内田  修   奥村 登志   渋谷  安   戸張 敦雄
中村 鎌次   廣瀬  久   藤木達三郎   目賀田八郎