抜粋内容

新年随想 全国連合退職校長会 会長 土橋荘司

全国校園長会会長より
教育改革と全日中 全日本中学校長会 会長 大橋久芳

英会話能力の必要性 全国高等学校長協会 会長 甲田充彦

特別支援教育を推進するために 全国特殊学校長会 会長 神尾裕治

第2回理事会報告

地方紙より: 「健康であるための方程式」

地方紙より: 「昭和も遠くなりにけり」

ふるさと探訪: 「津田左右吉」と津田記念館

所感: 「地震に思う」

五反田だより(事務局)

編集後記

新年随想 全国連合退職校長会 会長 土橋荘司

全国連合退職校長会
会長 土橋荘司

明けましておめでとうございます。昨年は自然災害や凶悪な社会的事件が続き、大変な一年でした。本年も会員と家族の皆様には良い新年をお迎えになられたこととお慶び申し上げます。

最近特に感じていますことは、成功のドアは向こう側からは開かないし、ステップ・アップの梯子は自ら昇るしかないということです。日常の生活の中で緊張感を持って、物事を見つめる重要性を感じる次第です。

以前から幸田文さんが父からの訓育について心を配っていることは知っていましたが、幸い最近村松さん著の ”幸田文のマッチ箱“という幸田文世界の真髄にせまる極上の書き下しが出版されました。母の死、父露伴から注意深く受けた厳しい躾、弟の死、継母との苦悩等から浮かび上がる「渾心」の姿こそ幸田さんの生きがいでした。「みそつかす」という作品が幸田文という存在、作家、人間を考える場合大きな手掛りとなる内容にみちていることは確実です。先ず文は掃いたり拭いたりの仕方を父より習いました。掃除ばかりでなく女親から教えられる筈のものは大概父から習いました。おしろいのつけ方から、豆腐の切り方、障子の張り方、借金の挨拶、恋の出入りまでみな父が世話をやいてくれました。

露伴は兄弟が多く貧困の中に育ち朝から米研ぎ洗濯炊事などもやらされ、これらの仕事を如何にすれば能率が上がるかを工夫したことを娘に話しています。「道具を持って来なさい」と言われ、そこで一番いい箒に、はたきを添えてゆくと露伴はこれでは掃除ができないから直すことからやると日向水をこしらえさせそれがぬるむ間に改造させられました。材料も道具もすべて露伴の部屋の物を使いました。露伴の部屋には「おとうさんのおもちゃ箱」と称する桐製の箱があり露伴の小道具が全部入っています。鋏で反故原稿の和紙を切り、房にします。団子の串に鑢をていねいにかけて竹釘にします。糸盾でしめて出来上り。「さっきのはたきの房の長さは違っている。どうしてだか使って見ればすぐ会得する」と言われました。常に父は根本の準備を尊重して掃除する心でした。このように書かれています。

全国校園長会会長より
教育改革と全日中 全日本中学校長会 会長 大橋久芳

全日本中学校長会 会長 大橋 久芳

  三位一体の改革の中で、義務教育費国庫負担金の取り扱いについて中教審で審議が進められておりますが、その制度の堅持について予断を許さない状況であります。現在、二十二の教育団体と連携し制度の堅持を求めています。

また、学習指導要領の見直しや学力調査、教員免許更新制度、専門職大学院の設置等の審議も加わり、教育改革の方向が明らかになってきました。

新しい時代の義務教育では何をどこまで教え、何を身に付けさせることが必要かを、新たな視点で見直し、その内容を再構築する必要があります。

その前提条件として、「生きる力」をはぐくむための「意志の力」の育成が必要であり、「忍耐力」「持続力」「探求力」など学習を支える力をどのようにはぐくむかも大きな課題であります。加えて、中学校教育での部活動の課題も存在しております。

教育に対する社会の要請や、教育改革の理念を真摯に受け止めるとともに、学校の自主性・自律性を高め、「生きる力」を教育の柱とし、将来にわたって自ら学び、自ら資質を高め、自己実現を図る意欲や態度をはぐくまなければなりません。さらに、人間としての尊厳を伝承することも大きな責務であります。

工業化社会から知識基盤社会へと大きく変化する現代社会において、学校・家庭・地域社会が深く連携し、義務教育の使命を果たさなければなりません。全国連合退職校長会が築かれたご功績を糧とし、不易と流行の調和を図り、全日中活動を推進してまいりたいと考えております。今後、なお一層のご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。

英会話能力の必要性 全国高等学校長協会 会長 甲田充彦

全国高等学校長協会 会長 甲田 充彦

機会あってこの夏、世界校長会議ケープタウン大会に全高長派遣団八名の団長として出席しました。会議は六日間にわたって開かれ、加盟の各国から二千人を超える校長が参加しました。

一番の難敵はやはり言葉でした。日本は理事国なので運営について理事会に出て採決に加わります。しかし通訳は用意されていませんので、頼みは一緒に参加した英語の校長先生しかいません。私は海外個人旅行では不自由を感じないのですが、本格的に英語を話すことはできません。つまり会議では耳と口が不自由な人となるのです。理事会の中でいくつかのグループに分かれて議論する場面がありましたが、「私は英語が話せません。」と言っただけで一言も意見を言うことはできませんでした。オランダやフィンランド、ドイツ、タイや韓国、それに地元のタンザニア、ザンビア、ケニアなどの方々は皆英語を話し通訳なしで議論に加わっていました。

日々をやりすごし英会話の勉強を積み重ねてこなかった自分に腹を立てるのですが、ついつい日本の英語会話教育にも矛先が向かいます。これからは、英語が自由に話せないと日本においても仕事にならない時代になっていくことを実感しました。

国が国家的取り組みとして英語会話力の必要性を認識し教育において展開していかないと日本はアジアの老小国となるのではないか。日本が世界のリーダーとしての立場が危うくなっているのは、政治や外交施策のせいではなく、語学教育施策にあるのかもしれないと思います。

高等学校協会として本気で今後の活動目標に据えていくべき課題だと考えるようになりました。

特別支援教育を推進するために 全国特殊学校長会 会長 神尾裕治

全国特殊学校長会 会長 神尾 裕治

中央教育審議会特別支援教育特別委員会では、一昨年12月の中間報告以降、一年余をかけて精力的な審議を行い、昨年12月に最終答申を公表しました。中間報告に新たに付け加わったものは、「特別支援学校教諭免許状」(仮称)の創設です。これまでの5種類の障害に、LD・ADHD・高機能自閉症など4種類の障害を加えて、様々な障害に対応できるように広く指導法を学ぶ、特別支援教育に対応した内容になっています。免許法附則第16項の当分の間規定は廃止され、特別支援学校に勤務するには原則的に一種免許を取得しなければならなくなります。また、幼児への早期からの支援や後期中等教育での支援の重要性、就学相談・指導の在り方の検討についても強調され、生涯にわたる支援体制整備を実現する内容になっています。

早ければ、平成19年4月からの改正学校教育法の施行に向けて、国の責任において、法制度面や特別支援教育コーディネーターの配置など人的諸条件等財政面での整備を進めなければなりません。

私ども全特長は、センター的機能を発揮して障害のある幼児児童生徒の相談支援に積極的な役割を果たすため、現在、個別の教育支援計画の策定と、それをツールとした幼稚園・小・中・高等学校や特殊学級、福祉・医療・労働等関係機関とのネットワークの構築に全力を挙げて取り組んでいます。

今後とも全国連合退職校長会の皆様のご理解とご支援をいただきながら、特別支援教育の推進に努力してまいりたいと考えておりますのでよろしくお願いいたします。

第2回理事会報告

◇期 日 平成17年10月21日  午前11時開会
◇会 場 江戸東京博物館1F   会議室
◇出席者 正副会長 常任理事  理事等70名
 司  会 廣瀬 久 部長

1、開会の辞 上田文男副会長

2、物故会員の冥福を祈り黙祷

3、「綱領」朗読

4、会長挨拶 土橋荘司会長
全連退の進め方について銘々が様々な考えを出し合って議論し組織の発展に繋げることが大切。都道府県の各退職校長会は自分達の会を大切にし同時に組織体としての全連退を盛り上げて欲しい。

フランス在住の哲学者、有森さんが、著書「生きること考えること」(講談社)の中で、体験との比較で経験の大切さにふれ、経験とは常にその本質を認めつつ、新しいものに乗り換えていくことが必要であること。経験を自覚し追求し高めて人間は向上するとのこと。この本には、我々が物事にどう対処したらよいかの教訓がある。今日の会が、経験からの意見が出され十分に行われることをお願いする。

5、理事会の運営について
戸張敦雄総務部長
(1) 第2回理事会の主たる目的
  ①監事交替に関する人事案件の議決。
  ②本部の動向と考え方、各事業の進捗状況と、当面する課題。
  ③各地区毎の情報と意見交換。
(2) 全連退設立40周年記念植樹の意向調査について

6、議事 監事の交替と承認
・退任 小泉希信氏(福井県)
・就任 藤田喜三氏(福井県)

7、各部・委員会より
(1) 総務部
① 七月二十五日、中教審義務教育特別部会で土橋会長が意見発表。
② 全連退及び各県退職校長会から、中教審義務教育特別部会部長以下全委員へ
   「義務教育費国庫負担制度堅持の緊急要請書」を送達。
③  「全連退の組織拡充等に関する調査、機器等に関する調査」について。
④ 中教審ヒヤリング、厚生労働大臣、文部科学大臣への要請書の説明。
⑤ 全連退HP更新計画と各県のパソコン設置状況について

(2) 教育振興対策部
平成17年度活動の柱、①教育憲章案に対する意見聴取と、教育憲章をもつ黒磯市訪問報告、②家庭、地域の教育力回復向上を目指し、教育実践規範指針を検討。

(3) 教育の日制定推進委員会
現在20都県が制定、17年度中の制定見込み5県。課題は、全県的広がりや協力体制の強化を図ること。教育の日制定市町村は37市町村(20県)である。教育の日の名称は使わないが同趣旨の事業は3県。

(4) 生涯学習推進部
生涯学習に対する意識と参加について全国1074名にアンケート調査実施(1014名九4.7%が回答)集計結果を平成17・18年度の二回に亘って報告する。

(5) 福利厚生部
①共済年金制度の職域年金部分の維持継続。②再任用、再雇用制度の各県への要請強化。③高齢者医療費の有料化による負担過重にならないよう要請する。④高齢者の税金制度が変わり、負担増への対応として、退職経験者の積極的活用要請。⑤叙勲制度(現状は有資格者の1%程度)の充実要請。
再任用、再雇用の条例についての調査結果は「年間活動・研究報告」で報告。

(6) 会報部
① 新会員勧誘用会報(第158号か第159号)の希望受付について希望等を事務局まで。
② 超高齢会員への会報贈与は、毎号の5%上乗せ配分の中で工夫を。

(7) 教育課題検討委員会
①義務教育学校の目的・機能・教育内容の方法等の検討。②学校の管理運営、教員の資質、家庭、地域との連携等の研究。結果は冊子に。③中教審ヒヤリングに委員会の提言を挿入。

(8) 教育基本法検討委員会
①地方分権が進む時代の教育委員会の在り方、学校と教育委員会との関係、学校の自主性等の研究を中教審ヒヤリングの内容に挿入。②9月以降は原点にもどり教育基本法の研究を継続。

(9) 事務局
全連退10月までの主な活動他。

8、報告・依頼事項
〈諒承を得ること〉
(1) 会計部から
① 平成十八年度から、一般会計から事業会計(貸室、出版等収益を伴う部分)を分け、特別会計を含めて三本立てにすることを検討中。年度内に煮詰める。
② 平成十七年度上半期執行状況及び分担金納入状況について。

(2) 出版委員会から
① 平成十八年度出版予定計画について
ア、出版のねらい
全国各地で子どもたち一人一人を手塩にかけ、きめ細かな教育指導に努めている立派な先生を
私たちの手で大切に表彰し世に出したい。
イ、内容
北海道から沖縄まで全国を網羅し、十八人の教育実践を紹介。
ウ、執筆者は理事が推薦する退職校園長。

9、情報意見交換・まとめ
(1) 地区毎の情報意見交換の報告
○ 北海道・東北地区
・会員数減少に対し、会員加入要請を年度変わり、半年後、一年後と電話や訪問で実施。
・現役校園長との交流。
・宮城県は校園長会のイベントに助成金を出して激励。福島県は支部活動を中心にして結束を強めた。
  義務教育関係100 %、県立95%の入会。
○関東甲信越地区I
・会員増の隘路①現役の入会意識低い、②町村合併、統廃合で学校数減、③物故される会員の方が多い等。
・現役校長へは、懇談会の開催、校園長会総会に出席、会報配布などで働きかける。
・退職校長会は福利厚生に力点をという意見が多い。
○関東甲信越地区II
・家庭教育支援、学校教育支援を協議。地域の特色を活かした学校改修や、学校地域家庭の協力態勢づくりに学校の役割が期待される一方、学校聖域がくずれ、競争原理が入り現職は苦しんでいる。一県だけでは解決できない。全連退本部への期待が大きい。
○東海北陸地区
・退職校長会は教育支援に重点を置くべきである。退職校長会が学校、PTA、関係機関に働きかけ、
  県内全小学校区域に、学区の安全のための組織ができた報告あり。
・市町村合併などで組織拡充がきびしい。現職に会報などの機関誌を渡し、入会のメリットを
  実感してもらうなど足もと固めや、人間的繋がりを造る努力。
○近畿地区
・地方の教育格差が心配。義務教育費国庫負担制度継続を願う。
・組織拡充は各支部毎に努力が必要。一軒一軒まわって説得し、入会該当者五人全員入会をはたした例の報告。
・現在の学校教育の乱れとして、家庭と学校の連携が問題。
○中国地区
・年金受給年齢が遅くなる後輩のためにも再任用、再雇用問題への取り組みは重要。
  本部の調査情報を各県に知らせてほしい。(年間活動・研究報告に掲載予定)
・全連退の会則に地区協議会が明記された。「中国地区連絡協議会会則」を作成。
・民間人校長採用問題について全連退の考え方は。
○四国地区
・徳島・香川は組織が大きく教育支援活動の幅が広い。徳島は、幼稚園も全連退に加入。
  現職との連絡協議会も盛ん。香川は教育の日も定着。
・高知・愛媛は高校だけの組織まず組織づくりが大切。
○九州地区
・教員の資質向上、教員養成には精神面で支援したい。
・教育の日を充実させて教育の原点を考えることが、家庭、地域の教育力の向上につながる。
  教育の日は各県の事情で様々。息長く取り組んで条例化を目指す。
・全連退の会員増強は、退職校長会と現職校長との関係を深める日常活動にある。

(2)まとめ    土橋荘司会長
全国連合退職校長会があることを知らなかったという現役校長がいた。知らない会には入会しない。
私たちは設立40周年を迎えて、更に伸びようとする姿勢を示した。我々は話し合い、具体的な施策、方向を出し、全体が一致して、これで行こうという主義主張が一本通っていなければいけない。今さら教育をやる必要はないという流れもあるが、退職校長会が教育のことをやらないで何をやれと言うのか。教育は必要ないと言うところに教育支援はない。

現役との結びつきが大切だと言うが、現役の方から退職校長会が考えていることを積極的に取り入れる姿勢がない。それを私たちは一生懸命やっている。年に一回現役の全国の各種校長会長を集めていろいろ話し合うけれども形式的になっている。その実態の中で、情熱を持って国のために各人が自負して自分の責任を果たしていきたい。国がどうなっても良いと考えたらそれで終わりだ。自分の一生をかけて教育を考えていく。それが退職校長会の良いところだ。

現役との交流をするためには任用の問題や年金の問題、叙勲の問題にも、ある程度はかえってくるとも私は考えている。

今日皆さんに真剣に話をしていただいた。めげないで、私たちは組織を十分に生かしてやれるところまでやって行こうではないか。言葉は足りないが皆さんに期待することは非常に大きい。本日の皆さんの熱意に私は感謝しています。

10、閉会の辞 船田徳壽副会長

地方紙より: 「健康であるための方程式」

(広島県退職校長会報第92号より)
甲奴郡 前原 信幸

その一
広島TV放映の、みのもんた司会による「おもいっきりテレビ」を知らない人はめずらしい。毎週の昼時いわゆる「健康」についての「食生活」をはじめ、医学的見地からすでに解明されているさまざまな人間の機能についての提言には、多くの人の関心の深いところであり、その証拠に、その日に放映された食材は郡市ではたちまち売り切れるという。

しかし、TVを見たからといってそのことを直ちに実行することは現実にできないにしても、かって少年時代に誰もが読み親しんだあのマーク・トウェーンの「トムソーヤの冒険」のなかで、「人間とは何か」についてこう言っているところがある。『人間というものは欲望で働く機械である』と…。

確かに人間誰もがこんな生き方を絶対の価値観として生きてきたことには異論はない。しかし、生活もある一定の保障がされる今日は、少々価値観も変わって、いかに「健康」でいられるかと言う時代になってきたのである。

現に、「長寿社会における意識の傾向に関する調査」でも、「健康で生きる」ことがトップなのである。

かってのマーク・トウェーンが唱えた人間の有り様を現代の価値観からすれば、「欲望+不健康=不経済…」と言う方程式になるのではないかと思う。

生活習慣病と言われる多くのリスクを抱えて生きなければならないわれわれにとっては「健康に生きる」ことには貪欲になる必要があり、そのための「若さ」「こころ」をどのように保つかが問われることになるように思うものである。

その二
「健康に生きる」ための「若さ」「こころ」の方程式であるが、もちろん「食」に対する関心は当然であり、休養のための精神的な面も当然大切なこととして重要なことである。

実は、すでに日本は、国際社会においては超高齢化社会であり、世界一の長寿国家となっている。したがって、六十五歳から七十四歳までを「ヤング・オールド」といっておりいわゆる「知力」「気力」「体力」とも充実して、それぞれの社会的分野で活躍していることからそういっていると思う。

われわれは、「定年」という法的なだけの生きてきた区切りを迎えただけで、「ヤング・オールド」といわれるわけは、生きるという連続の中での一区読点に過ぎないということに気づくことになる。

その三
「健康に生きる」方程式は、いってみればそれぞれ一人一人によって違うものであり、それだけに自分なりの理念も必要となるように思うのである。

そういう考え方であったかどうか推測しかできないが、例えばあの「昆虫記」で有名な学者であるファーブルは、五十五歳で「昆虫記」を書き始めて九十歳までも筆を執りつづけており、日本でも、江戸の浮世絵師葛飾北斎が「富嶽三十六景」を描いたのは、すでに七十歳を超えてからである。また、日本列島を測量した伊能忠敬は、隠居したあとの五十五歳から偉業を達成している。

近くは、日本画家奥村土牛は、八十歳を超えてから傑作を残した。女性で文化勲章を受けた日本画家小倉遊亀さんは、百歳近くになっても麗筆を奮って活躍したのである。

これらの偉業を成し遂げた先人はすでにその価値観が、「欲望で働く機械」ではなく、「健康」こそ人生で最大の幸福であると言う理念があったように思われるのである。

「健康」には貪欲になろうと思ってみても、なかなかその方程式通りにはいかないのである。

その四
今「教育界」では「生きる力」を育てる教育が求められており、その中にもたくましく生きるための健康・体力が重要視されている。

「スポーツ」の世界や芸術全般などにわたってよく使われる言葉に「守」「破」「離」という原則がある「守」=基礎・基本であり、「破」=応用能力をさし、「離」=個性・想像力をさしている。

このような考え方がわれわれの生き方にも極めて大切なことであり、このことから自分なりの「健康で生きる」ための方程式を見出したいと思うこの頃である。

※甲奴郡退職校長会「会報・第二十六号」より転載。

地方紙より: 「昭和も遠くなりにけり」

(千葉県退職校長会会報第56号より)
木更津地区  林   務

昭和の教職を四十年間してきました。小学校少々、大半は中学校でした。定年後に私立中学校をわずかながら体験しました。

・朝早く子らの声聞き放課後も子らと遊びし駆けだしの頃
・昼休みわがテーブルに花が咲くおしゃべり好きのすみれの花が
・窓によじ暗幕を張るやんちゃらの瞳きらきら幻灯準備
・使丁室に米と小銭を持ちゆきて気がねし頼む今宵当直
・週授業二十七コマ持ちたるに補欠まで付く教務を恨む
・第六時気合いをかけて教室へ生徒眠らす授業はしまい
・女生徒らチョーク落とせば笑いこけ机間通ればまじまじと見る
・南房を銀輪連ねひた走る中三男子に遅れとらじと
・箱火鉢するめ焙って茶碗酒教育談議夜の更けるまで
・雨の午後部活の生徒らが図書室でひっぱりだこの ”のらくろまんが“
・済まないが、異動告ぐれば教員はえっと絶句し吾を見据える
・最大の賛辞を以て送らんと言葉遊びぬ明日辞校式
・再びは歩むことなき廊下踏み教職最後の一日を終えぬ(公立)
・出勤の最後となれる山路にいのち芽生えの雨降り注ぐ(私立)
・あと5分!眼と眼が糸でつながりぬ男生徒らと別れの授業
・喫煙や山学校のその後に苦労積んだと遠き教え子
・女生徒の頃よりずっとしっとりと五十半ばはまた美しく
・年経るも「お会いしたいわ」教え子の賀状の一言胸熱くなる
・バスガイドは中学校の校長と吾を紹介す耳朶熱し
・こいのぼり川を挟んで泳いでる小学唱歌うすれゆくとも
・謄写版の錆を落としてピカピカに七つ道具の置き去りを詫ぶ
・枕辺をそっと濡らせし青春の情熱こそが教職支えぬ
・教育に不易ありやと問われたら「愛」と答えて沈黙しよう

-回想詠による-

ふるさと探訪: 「津田左右吉」と津田記念館

(岐阜県退職校長会「彩雲」第150号より)
加茂支部  片山  靖

 JR高山線古井駅を下車、歩いて五分ほどで新青柳橋にでる。飛騨川の清流に浮かぶ島があり、御堂の屋根が見える。小山観音である。養蚕の神様と言われてきたが、今でも三月の初午の縁日には、多くの参詣者で賑わう。
  橋を渡って更に進み、左に十分ほど行くと「津田左右吉博士記念碑」がある。氏の生家を移築改復した明治初期の茅葺きの小さな建物である。

津田左右吉(1873~1961)は、美濃加茂市の生んだ歴史学者、思想史家であり、古事記及び日本書紀の研究で大きな業績を残した。また日本のみならず中国や朝鮮の地理歴史の研究でも知られている。こうした左右吉の史実や文献に基づく科学的な手法は「津田史学」とまで言われるようになった。

左右吉のこうした数々の業績は、やがて国家主義者等から学問的弾圧を受けるようになり、代表的な著書は発売禁止、そして早稲田大学教授の職も追われることになる。「皇室の尊厳を冒涜した」との理由で実刑判決を受けるも、学問上の真実は曲げられないと自説を主張し続けた信念のある学者であった。

終戦を迎えて左右吉の業績は高く評価され、第八回文化勲章を受章(昭24)、続いて文化功労者(昭26)に選ばれている。そして美濃加茂市名誉市民の第一号にもなった。

今では顕彰会が設立され、様々な顕彰・文化活動が行われている。中でも、小中学生を対象とした津田賞作文「わたしのゆめ」は広く県下から応募され、既に21回を数える。

記念館の東方には、桜の名所「さくらの森」公園、北方には、市重要文化財指定の若名御前宝篋印塔と諏訪神社(山車とバイオウで知られる)があり、記念館や小山観音と共に「爽やかウォーキング」コースの一つとなっている。

所感: 「地震に思う」

(新潟県公立学校退職校長会会報第30号より)
小千谷支部  磯部和三郎

 その時、私は二階に居た。轟音と烈震で全身が緊張した。階段は転落して無くなっている。飛び降りて茶の間の妻を連れ出した。九死に一生の瞬間が過ぎたが間断なく余震と不気味な山崩れの音が続いている。

二日後、ひび割れた小学校の校庭へ自衛隊ヘリコプターが来て孤立した我々を総合体育館(中央避難所)へ空輸するという。避難命令が出たのだ。フライト十分間で、着陸した所は自衛隊・東京消防庁はじめ全国各地からの物々しい装備で大規模な保護救援活動が展開されている。手際よく敏速な活動を目の当たりにして危機管理体制が万全であることに頭が下がる。避難者は静々と歩いて行く。

家も山も川も全壊し原型を失った今「この齢になって何でこんな目に」と嘆いたのは私だけでないと思うが人間と自然との関わりは人間の生命を超えて続くもの。

とすれば、「元気なうちに一日も早く再建してみんなでもう一度美しい花見をするまで生きていこう」と老人達は語り合っている。

”想いでの崩れし跡に声もなく
友の心を偲び涙す“乱雲
平成十七年五月二十一日

(全壊の拙宅を見た親友から届いた一首)

五反田だより(事務局)

(事務局)

新年を迎え、会員の皆さま、ご家族の皆さまのご多幸をお祈り申し上げます。

二年前、全連退は設立40周年を迎えて、土橋荘司会長の言葉を借りれば「私たちは更に伸びようとする姿勢を示した」のでした。本年も日本の教育のため将来ある子どもたちのために、多くの活動を進めます。日本各地からお寄せいただくお考え、ご意見は大へん貴重です。事務局にお話しいただければ、それぞれの部、委員会へ伝えます。よろしくお願いします。

○お知らせ
岩手県公立学校退職校長会会長大崎弘一様死亡により、会長代行に副会長小嶋久人様が就任。(17・10・20)

◇9月
1 全連退情報第37号発行
2 総務部会
6 会報部会
8 部長会
9 教育振興対策部会
13 教育課題検討委員会
15 常任理事会
16  福利厚生部会
27 教育基本法検討委員会
29 生涯学習推進部会
   出版委員会
30 教育の日制定推進委員会

◇10月
7 教育課題検討委員会
13 教育の日制定推進委員会
   総務部会
18 教育振興対策部会
21 平成17年度第2回理事会

◇11月
1 生涯学習推進部会
7 教育課題検討委員会
8 会計部会
10 教育の日制定推進委員会
11 部長会
14 教育振興対策部会
17 会報部会
24 生涯学習推進部会
   福利厚生部会
25 平成17年度「年間活動・研究報告」編集委員会
   会報部会
28 教育基本法検討委員会
29 教育の日制定推進委員会

◇12月
2 常任理事会
5 東京都退職校長会との連絡協議会
9 出版委員会
12 教育振興対策部会
13 生涯学習推進部会
16 教育課題検討委員会
22 部長会

編集後記

○きびしくもまたすがすがしい寒さ、皆様ご気げんいかがでしょうか。本年もまたよろしくお願いいたします。

○新しい時代を生き抜く力を培うことをねらいとする教育改革がいろいろな分野で進ちょくを見せる中で、昨今の児童や生徒にまつわる悲惨で残忍ともいえる行為の報道に接する時、昔と異なる環境のゆがみを痛感させられます。現代人が見失った人と人の絆、穏やかで寛容な生活や社会の回復が熱望されます。

○「教育の日」の全連退の主唱の因って来るものもこれらに深い関わりをもっているともいえましょう。一層の発展を願うものです。